2/2の音色

有箱

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最終話

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 胸がざわめく。しかし、これは良い方のざわめきだ。嬉しそうに感謝をくれたうめだが、感謝するのは私の方だろう。それほど私は救われていた。

 両手で弾けなくとも、喜ぶ顔は見られると気付かせてくれたのだから。あの講演が、演奏の記憶の最後になると思っていたのに。

「戻れない場所を見続けても意味がない……か……」

 コンサートホールを諦めたい訳じゃない。会場に響くあの音を吹っ切った訳でもない。けれど、再び手に入れることは出来ないと、私が一番分かっているのだ。だから、私がちゃんと別れを告げなければ、きっと何も変わらないーー。

***

「先生! 中々来られなくてすみません!」

 勢いのいい入室を受け、岸が入ってくる。部屋にはうめもいた為、これが初めての三者対面となった。胸に抱いたある一件のせいで、一瞬気まずさがよぎる。だが切り替えた。

 岸はうめの正体に気づかないらしく、関係性を問ってきた。友人だと告げると嬉しそうにしてくれた。
 空気を読んでかうめが立ち上がる。反射的に裾を掴み、次の動作を止めた。

「出来ればここにいてほしいんだけど……」
「分かった」

 やり取りを不思議そうに見る岸に向け、真剣さを整える。あの日から数週間、私はずっと彼の訪れを待っていた。

「岸さん、早速で申し訳ないのですがお話があります」
「えっ……まさか悪い知らせとかじゃ……」

 狼狽える岸を前に、少しばかり決意が引っ込みそうになる。だが、うめの頷きで留めた。

 あれから何度かうめと連弾した。子ども向けの簡単な曲中心ではあるが、メロディを紡ぐ喜びは変わらなかった。笑顔を向け合う度、私の居場所は何も会場だけじゃないーーとの気持ちになった。

「岸さんにとっては悪い知らせかもしれないです。でも、聞いて下さいますか?」
「……ってことは、先生にとってはいいお話なんですね」 

 私の穏やかさを受けてか、岸も穏やかに笑う。腰かけたのを見計らい、告げた。

「私はもう、ピアニストには戻りません。岸さんや待っていて下さる皆様には申し訳ないですが……。でも悲観的に言っているわけではありません。私は私の為に戻らないと決めたのです」

 凪のように静かに、恐れを悟らせないように。繕って伝えるも、内心では返答を怖がっている。岸は顔面を強ばらせ、数秒黙っていたが突如として泣き出した。

「すみません僕、何も知らないで勝手に期待をぶつけて……先生もお辛いのに」
「い、いいんですそれは! 私を想ってのことだと分かってますし、岸さんには本当に感謝してるので」

 意外にすんなり受け入れられて、拍子抜けしそうだった。蟠りが突然解け、不意な笑みまで零れてくる。それを見て、うめも大きく笑った。

「でも、これで本当に先生のピアノ聴けなくなっちゃうんですね……寂しいけど、先生が前を向こうとしてるなら私も応援を……!」
「あ、そのことなんですが……」

 うめと見合う。先を思うと緊張したが言い切った。きっと彼なら大丈夫だ。

「一度、遊戯室に来て下さいませんか?」
 
 これが今の私だと。彼女と二人、笑って音を奏でよう。
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感想 1

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みんなの感想(1件)

柚木ゆず
2023.02.10 柚木ゆず

投稿スタート、おめでとうございます。

体調不良の影響で今日は1話で止まっておりまして……。続きは明日、体調がまだわるければ明後日に明後日にお邪魔させていただきます。

2023.02.11 有箱

柚木ゆずさん、お久しぶりです!
まずは作品に気付き、読んで下さりありがとうございます!更には体調が優れないのにも関わらず、嬉しいお言葉まで残して下さり喜びが込み上げております…!
続きを読もうと思って下さるだけで嬉しいので、どうかご無理はなさらず…。お時間と力の余っている時にでも覗いてやって下さいませ( ´∀`)

実は今は執筆活動自体をお休み中でして。下書きの状態で放置したままの作品があることに気付き、投稿しに戻った次第です^^;

長らく間を空けていたのに私を覚えていて下さり、しかも投稿を祝福までして下さり、大変大きなエネルギーを頂きました!チャージして、本当に執筆を再開した時に充てさせて頂きたいと思います!

毎度長々お返事すみません💦いつも嬉しい気持ちをありがとうございます!
柚木さんの体調が少しでも早く回復することをお祈りしています。寒い日が続いていますので、温かくしてお過ごし下さいね( ´ ▽ ` )

解除

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