2/2の音色

有箱

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 私を想う人々の手前、治療を放棄はできない。しかし、私は打ち込むこともできなかった。外見だけは取り繕いながら、内では自暴自棄になっている。そんな半端な状態で、今日もベッドの上笑顔を讃えた。

「喜一先生、リハビリの方はどうですか? 皆さん本当に心配しておられますよ」
「そうですね、中々上手くはいかないですね……」
「でも先生なら大丈夫ですよ。僕も含めて皆さん帰りを待っていますからね!」

 現在、私は引退宣言をし、業界からは退いた状態にある。よって、関係者が部屋に訪れることはほぼなくなった。最初は詰めかけていた記者も、最近では全く見ない。

 一年が経過しても足繁く通ってくれるのは、元マネージャーである岸だけだ。彼はマネージャーになる前から私のファンだったらしく、今も復帰を願ってくれている。それが苦痛になっているとは知らずに。

 仕事があるのだろう、岸は数分居座ると早々病室を後にした。扉がしまると同時に笑顔を放る。
 だから戻れないんだってーー大人げなく叫べる訳もなく、感情は涙として溢れた。感覚の乏しい右腕を叩く。

 リハビリをすれば動かせる可能性もある。そう聞いてはいるが、ピアノが弾けるほどではないはずだ。毎夜毎夜、ピアノの前に立つ度に実感する。鍵盤に左手指を乗せるだけで現実に潰れそうになる。

 私がこの先、奇跡の音を鳴らすことは絶対にない。
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