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最終話
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固いパンを分けあって、体を洗ってもらう。すり寄って、寄り添って、時には速度を合わせて散歩もする。ゾンネが酷い目に遭う時は、僕も一緒に戦うようになった。
僕の毛色は、徐々に白へと戻りつつある。けれど変わらず、僕たちは影と共に暮らしている。
今ではもう、日溜まりへの恋しさはほとんどなかった。まぁ、時には日光浴もいいなと思うけど。
道の向かいから伸びる光を見つめる。
「行きたいのか?」
優しく何か尋ねられ、分からずとも明るい声で肯定した。ゾンネは僕を抱えあげ、ゆっくりと歩き出す。
出口の手前、太陽のライトが穏やかに僕らを包んだ。久々の光が――見上げて微笑む顔が、嬉しくて何度も歓喜の声を上げてしまう。
「心地いいな」
「幸せだね!」
ただただ光を集めていると、耳に小さな声が灯った。声は出口から届いていた。逆光により、ドレス姿のシルエットだけが現れる。
「あ、あの時はありがとうございました! ずっとお礼が言いたくて探していました! 猫ちゃんもありがとう! それでは失礼します……!」
声だけ残すと、主は早くも立ち去った。ただ、大きなシルエットに代わり、小さな四角の影が残されている。それが紙袋であると、僕らにはすぐに分かった。
唖然としていた僕たちは、一拍を置いて目を合わせる。風のような出来事をやっと捉え、笑った。
「探してたんだって。お前の声で気付いてくれたのかもな」
紙袋からは、甘くて香ばしい香りがした。
僕の毛色は、徐々に白へと戻りつつある。けれど変わらず、僕たちは影と共に暮らしている。
今ではもう、日溜まりへの恋しさはほとんどなかった。まぁ、時には日光浴もいいなと思うけど。
道の向かいから伸びる光を見つめる。
「行きたいのか?」
優しく何か尋ねられ、分からずとも明るい声で肯定した。ゾンネは僕を抱えあげ、ゆっくりと歩き出す。
出口の手前、太陽のライトが穏やかに僕らを包んだ。久々の光が――見上げて微笑む顔が、嬉しくて何度も歓喜の声を上げてしまう。
「心地いいな」
「幸せだね!」
ただただ光を集めていると、耳に小さな声が灯った。声は出口から届いていた。逆光により、ドレス姿のシルエットだけが現れる。
「あ、あの時はありがとうございました! ずっとお礼が言いたくて探していました! 猫ちゃんもありがとう! それでは失礼します……!」
声だけ残すと、主は早くも立ち去った。ただ、大きなシルエットに代わり、小さな四角の影が残されている。それが紙袋であると、僕らにはすぐに分かった。
唖然としていた僕たちは、一拍を置いて目を合わせる。風のような出来事をやっと捉え、笑った。
「探してたんだって。お前の声で気付いてくれたのかもな」
紙袋からは、甘くて香ばしい香りがした。
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