言葉に隠されしは

有箱

文字の大きさ
上 下
2 / 7

アネモネ

しおりを挟む
 体温計を掲げ、溜め息を吐く。元々虚弱体質だと言えばそうだが、今回の風邪は少し厄介そうだ。

 スマホが光る。三日ぶりの受信だ。持ち変えて見ると、香澄の名前があった。
 正直なことを言おう。この三日、結構心待ちにしていた。

 開くと、白色の花が見えた。丸めのシルエットが可愛い花だ。いつもながら、写真家の如く上手に撮影されている。
 
"名前はアネモネ。赤色や紫もあるけど、今日は白いものを。花言葉は『真実』。他のもまた送るね!" 
"あ、体調はどう? 復帰したら勉強教えられるよう私も頑張る!"
 
 メッセージを読み、場面を想像する。休み時間、隣で勉強を教わる光景だ。
 小学校でも中学校でも、日常的におこなっていた。だが、入学直後は特に、恋人だのなんだのと持て囃されたものだ。

 その時、香澄は恥ずかしそうに堪えていた。しかし、休みがちな俺が授業についてゆける方を優先し、続けてくれていた。

 恋人疑惑は時の経過と共に消えたが、今やればまた誤解されそうな気がする。
 文からは肯定の色すらみえるが、それも優しさゆえだろう。

 もしかすると、"真実"とメッセージは繋がっているのかもしれない。本当は断って欲しい、みたいな。

 少し考え、いつもの乗りを装って返事した。

"体はぼちぼち 勉強はまぁ自分で頑張るわ"
 
 スマホを置く。有言実行すべく、重い腰を上げた。机上に積まれた教科書を取る。
 捲ってみたが、やはり相当手強そうだ。頼らざるを得ないと感じるほどには。

 しかし、高校生にもなって異性が教えあうなど、恋人だと示すようなものだろう。例え本人に気がなくとも、風潮が唯の仲良しを許さない。世の中そんなもんだ。

 スマホが鳴った。"そっか、頑張ってね!"との返事が来ていた。複雑な心境からの、小さな溜め息が溢れる。
 
 日常が移り変わるのは世の常だ。今互いに知らないことも増えたし、他愛ない話の頻度だって減った。
 それぞれが成長し、環境も変化していく。それでいて変わらない方が可笑しいのだから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】少女探偵・小林声と13の物理トリック

暗闇坂九死郞
ミステリー
私立探偵の鏑木俊はある事件をきっかけに、小学生男児のような外見の女子高生・小林声を助手に迎える。二人が遭遇する13の謎とトリック。 鏑木 俊 【かぶらき しゅん】……殺人事件が嫌いな私立探偵。 小林 声 【こばやし こえ】……探偵助手にして名探偵の少女。事件解決の為なら手段は選ばない。

Bless The VAMPIRES -吸血鬼に祝福を-

Mar
ミステリー
 世間では未知の感染症が蔓延し、不要不急の外出を避け、マスク着用が義務付けられていた。そんな窮屈な日常を打開しようと、政府から出されたのは的外れな政策。嫌気がする毎日に、あるニュースが注目を浴びた。 『吸血鬼は現代社会に存在する』

事故現場・観光パンフレット

山口かずなり
ミステリー
事故現場・観光パンフレット。 こんにちわ 「あなた」 五十音順に名前を持つ子どもたちの死の舞台を観光する前に、パンフレットを贈ります。 約束の時代、時刻にお待ちしております。 (事故現場観光パンフレットは、不幸でしあわせな子どもたちという小説の続編です)

春の残骸

葛原そしお
ミステリー
 赤星杏奈。彼女と出会ったのは、私──西塚小夜子──が中学生の時だった。彼女は学年一の秀才、優等生で、誰よりも美しかった。最後に彼女を見たのは十年前、高校一年生の時。それ以来、彼女と会うことはなく、彼女のことを思い出すこともなくなっていった。  しかし偶然地元に帰省した際、彼女の近況を知ることとなる。精神を病み、実家に引きこもっているとのこと。そこで私は見る影もなくなった現在の彼女と再会し、悲惨な状況に身を置く彼女を引き取ることに決める。  共同生活を始めて一ヶ月、落ち着いてきたころ、私は奇妙な夢を見た。それは過去の、中学二年の始業式の夢で、当時の彼女が現れた。私は思わず彼女に告白してしまった。それはただの夢だと思っていたが、本来知らないはずの彼女のアドレスや、身に覚えのない記憶が私の中にあった。  あの夢は私が忘れていた記憶なのか。あるいは夢の中の行動が過去を変え、現実を改変するのか。そしてなぜこんな夢を見るのか、現象が起きたのか。そしてこの現象に、私の死が関わっているらしい。  私はその謎を解くことに興味はない。ただ彼女を、杏奈を救うために、この現象を利用することに決めた。

玉石混交の玉手箱

如月さらさら
ミステリー
ショートストーリーの詰め合わせ。 福袋の中身は大抵期待外れではあるのだが、自分から買う意欲のない物を様々なバリエーションを伴い獲得出来るので、案外楽しさを含んでいるのだなぁ、なんて。

双子協奏曲

渋川宙
ミステリー
物理学者の友部龍翔と天文学者の若宮天翔。二人は双子なのだが、つい最近までその事実を知らなかった。 そんな微妙な距離感の双子兄弟の周囲で問題発生! しかも弟の天翔は事件に巻き込まれ――

円城寺家のイケメン探偵~脅迫状に込められた思い~

けいこ
ミステリー
円城寺 凛音(えんじょうじ りんね)は、大企業の社長を父に持ち、容姿端麗、頭脳明晰な眼鏡男子。 自室を探偵事務所とし「大学生探偵」と呼ばれ活躍中。 個性的な4兄弟、執事やばあやさんに囲まれ大豪邸に暮らしてる。 私、伊藤 紬(いとう つむぎ)は、保育士をしながら幼なじみの凛音の「探偵助手」をしてる。 そんな私は、イケメン探偵の「ファン」を公言してるけど… 生粋のお嬢様、院瀬見 亜矢奈(いせみ あやな)さんという手強いライバルがいる。 「殺人と浮気調査以外の日常に巻き起こる事件なら何でも引き受ける」 をモットーに、凛音は日々謎を解く。 凛音の妹、初音(はつね)が通う高校の演劇部に届いた一通の脅迫状。 「文化祭の劇を中止しなければ災いが起こる」 誰が何のために… 演劇部に渦巻く暗い闇を消すために、凛音は颯爽と動き出す… ※本格ミステリーではありません(笑) 恋愛要素もちょっと入ってます。 登場人物が途中追加される場合あります。

舞姫【中編】

友秋
ミステリー
天涯孤独の少女は、夜の歓楽街で二人の男に拾われた。 三人の運命を変えた過去の事故と事件。 そこには、三人を繋ぐ思いもかけない縁(えにし)が隠れていた。 剣崎星児 29歳。故郷を大火の家族も何もかもを失い、夜の街で強く生きてきた。 兵藤保 28歳。星児の幼馴染。同じく、実姉以外の家族を失った。明晰な頭脳を持って星児の抱く野望と復讐の計画をサポートしてきた。 津田みちる 20歳。両親を事故で亡くし孤児となり、夜の街を彷徨っていた16歳の時、星児と保に拾われた。ストリップダンサーとしてのデビューを控える。 桑名麗子 保の姉。星児の彼女で、ストリップ劇場香蘭の元ダンサー。みちるの師匠。 亀岡 みちるの両親が亡くなった事故の事を調べている刑事。 津田(郡司)武 星児と保が追う謎多き男。 切り札にするつもりで拾った少女は、彼らにとっての急所となる。 大人になった少女の背中には、羽根が生える。 与り知らないところで生まれた禍根の渦に三人は巻き込まれていく。 彼らの行く手に待つものは。

処理中です...