あと百年は君と生きたい

有箱

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最終話

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「今後の予定ですが、調整しなくても大丈夫ですか?」
「大丈夫! 落ち込んではいられないよ」

 映画の撮影にCMの打ち合わせなど、詰め込んだ予定通りに日々を燃やしてゆく。

 杏の死後、世界は簡単に色をなくした。しかし、僕には果たすべき使命がある。ゆえに、俯く暇などなかった。

 公開期間について、監督は快諾してくれた。キャスト陣も笑って許してくれた。よって、公開は完成からちょうど五十年後へ設定されることとなった。

 僕のやるべきことは三つ。まずは映画を最高のものにすること。それから五十年、最高の演技を続けること。そうして、物語の裏側を余すことなく伝えることだ。

 杏がなぜ公開日を遅らせたのか。今なら理由が分かる。きっと、あれは僕への仕返しだ。杏の物語で映画ができるまで、僕は主演を退く――そう告げた僕への仕返しなのだ。僕が生命力を無くせないように。

「……さて、頑張るか!」

 五十年後の脚光を描く。微笑みを口角に宿し、佐原白の仮面を被った。
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