愛の呪いは夢を見させる

有箱

文字の大きさ
上 下
7 / 10

しおりを挟む
 キリは優しい人なのだろう。愛が慰めの手段でも、これは事実だ。だからこそ僕は、前以上に彼が愛しくなったし、追い付き必要とされたいと夢も見てしまう。

 もう、心痛など厭わない。不要とされない自信を手にするまで、どんな危険でも犯す。例えどこまで非道な人間になろうとも。
 
 時々町に赴くと、世界の無情さを痛感する。顔をあげて生きてこなかったから、気付かなかったらしい。誰も彼もが人から目を背けており、不思議なくらい視線が合わなかった。裏仕事に従事する、僕にとっては有り難いことだが。

 業務的なやり取りを経て、肉屋で肉を買う。死して解体済みの肉ならば、何の抵抗も感じない。むしろ、昔はありつけなかった高級品に魅力さえ感じる。
 なのに、やはり三年の月日が流れても、殺しには染まれなかった。もはや日常となったはずの光景を、思い出すだけで目眩を感じる。
 いや、認めたくはないが、年々拒絶が深まっている気もしている。

 店を出たところで、小さな衝撃が右からぶつかってきた。勝手に跳ね返った物体に目をやると、小柄な女性が尻餅を付いていた。嗚咽を鳴らし、花束を散らかしている。大きく膨らんだ腹が命を抱えていた。

 無視して踏み出そうとした時、呟かれた名詞が耳を突く。足が止まりそうになったが、普段通り心に蓋をして走り去る。
 呟かれた名は、少し前に僕が殺した人間の名だった。
 
 今さらな話だ。重々承知――している積もりだった。
 裏路地に飛び込み嘔吐する。服も購入物も、汚さないようにして何度か吐いた。

 嘗て想像したことがある。もし愛しい人が殺されたなら、どんなに絶望するだろうと。しかし、元々想像力が乏しかったのか、苦痛は描けども仕事を退く理由にはならなかった。
 なのに、悲しみを目の当たりにした瞬間、急に罪悪感が刺さってきた。

 それでも、ナイフを振るわずにはいられないのだが。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

孤独な戦い(3)

Phlogiston
BL
おしっこを我慢する遊びに耽る少年のお話。

孤独な戦い(1)

Phlogiston
BL
おしっこを我慢する遊びに耽る少年のお話。

風邪をひいてフラフラの大学生がトイレ行きたくなる話

こじらせた処女
BL
 風邪でフラフラの大学生がトイレに行きたくなるけど、体が思い通りに動かない話

孤独な戦い(4)

Phlogiston
BL
おしっこを我慢する遊びに耽る少年のお話。

いろいろ疲れちゃった高校生の話

こじらせた処女
BL
父親が逮捕されて親が居なくなった高校生がとあるゲイカップルの養子に入るけれど、複雑な感情が渦巻いて、うまくできない話

おしっこ8分目を守りましょう

こじらせた処女
BL
 海里(24)がルームシェアをしている新(24)のおしっこ我慢癖を矯正させるためにとあるルールを設ける話。

【 よくあるバイト 】完

霜月 雄之助
BL
若い時には 色んな稼ぎ方があった。 様々な男たちの物語。

性的イジメ

ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。 作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。 全二話 毎週日曜日正午にUPされます。

処理中です...