惜別の赤涙

有箱

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第五話

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 二人が殆ど目線を合わさず話し込んでいる中、シュガの後方を青年が通り過ぎようとしていた。青年は支給品を持った状態で首を項垂れさせ、物憂げな空気を放っていた。

 そんな青年に、先に気付いたのはシックだった。シュガは食事の皿に目を向けていた。

「あ!リガ丁度良いところに!」

 シックが椅子から腰を上げ、大きく手を振る。それに気が付いた青年、リガが大きく笑った。

「…あ!シックとシュガ!久しぶり!」

 リガが取り繕っている事は直ぐに分かった。だが敢えてそこに突っ込みはしない。

「俺もここで食べても良いかな?」

 いつも通りの笑顔を振りまきながら、リガはシュガに笑いかける。しかし、答えたのは、問われたシュガではなくシックだった。

「ん?良いよ、ここ空いてるし」

 だが、リガは大きな心で流し、シックの前、シュガの横に座った。

 だが、リガが座ってシックが再度腰をかけても、会話は何も生まれなかった。
 シュガとシックはリュジィの件を切り出して良いものか迷い、リガも同件により普段通り頭が働かなかったからだ。

 しかし、黙り込んでいるのも逆に空気が重くなる。シュガは漸く、心を決め切り出した。

「聞きましたよ、リュジィが出て行ってしまったって話」

 やはり、気になるものは聞いておくべきだろう。別件を持ち出す事もできたが、あえて直球を選択した。
 リガは一瞬だけ目を丸くし、顔を僅かに俯かせる。

「あ…ああ…うん」
「落ち込まれているのでしょう?」

 シュガの問いに答えるリガは、俯きを維持したまま困り笑いを浮かべた。

「ま、まぁね…。でもリュジィが自分で決めた事だし、落ち込んでるのも悪いかなぁって…」

 その答えを聞いたシックはまた立ち上がり、

「あんたは強いね!」

 と言ってリガの肩を力強く叩く。
 シックはリガよりも9つほど年上で、シックとシュガの年齢はそれほど変わらない。

「分かってるからさ…、嘆いてもどうしようもない事くらい」

 リガは、己に言い聞かせるように漏らした。
 きっと、リュジィにもう会えないと心内では覚悟しているのだろう。そして、現実を飲み込んだ上で言っているのだろう。

 重苦しい空気での笑顔の維持が苦しくなったようで、リガは切り替えるかの如く首を数回横に振った。
 そして、声のトーンを変えて尋ねる。

「えっと!それよりシュガは最近調子どう!?」

 指定された名詞に、反応してシックが突っ込んだ。

「私は!?」

 その予想外の突っ込みに、リガは戸惑いながらも確りと理由を述べる。

「いや!シックは元気そうだから大丈夫かなぁって!」
「まぁ大丈夫だけどね!」

 シックは告白を認めながらも、子供のように頬を膨らませ腕を組んだ。
 シュガはそんなシックを横目に見ながら、リガの質問に対する答えを述べた。

「私は相変わらずな感じです」
「相変わらずって事はまだ続けてるんだよね…」

 リガの口から、無意識に零れだしたと思われる呟きに、シュガは確りと返事した。

「はい」

 返答直後、リガは後悔をしているかのような表情を浮かべた。表情の変化に対面し、シックは小さな溜め息と同時に控え目に問いかける。

「…何あんたまだ気にしてたの?」

 リガは、戻れなくなった事態に何とか収集をつけようと、焦りながらも何とか訂正を加えた。

「あ、や、そう言う事じゃなくて…大変だなぁっと思って…あと…」

 続きを匂わせる語尾に、反応したのはまたもシックだった。

「あと?」

 正しく言うと、シュガも反応していたのだが敢えて声にしなかったのだ。
 リガは、言い辛い事なのか、僅かに声を濁らせる。

「……もしリュジィが重症患者として戻ってきちゃった時にシュガがいてくれると助かるなって……」
「…あぁ…」

 出来れば想定したくない状況を浮かべ、シックもつい絶句してしまった。
 だが、シュガは違った。別の部分に観点を置く。

「肯定の意味を込めて下さっていたのですね、私はてっきり否定されているのだと」

 リガは誤解に申し訳なさを覚えたのだろう。あたふたと開いた両手を揺らし、否定を表現した。

「あ!違うよ!シュガがいてくれたお陰でここの兵は何人も助かってるんだし…」
「でもさー、場合によっちゃ仲間だって殺してるって話じゃねぇかよ」

 急に横入りした声に、リガとシックは勢いよく顔をあげた。それに対し、別に驚いてもいないシュガはゆっくりと顔を上げる。

「うわっ、来たよ!」

 目線の先、トレーを持って立っていたのはレイギアという青年だった。
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