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悪魔のいる国【2】
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「それより羽島、一つ気になってることがあるんだけど」
「んんー? なんのことだい赤木くん?」
内容を確信している羽島は、やや得意気に知らんぷりをする。反応から回答を先取りしつつも、敢えて尋ねてやった。
「昨日、〝女神ちゃん〟と帰ってたの見たんだけど。しかも手まで繋いじゃって……どういうこと?」
女神ちゃんとは約一ヶ月間、妙な時期に転校してきた女子――桜庭彩歌のことである。
別の組であるのに関わらず、瞬く間に噂が歩きはじめるほどに美少女――だそうだ。僕は恋愛に興味がなく、見に行ってはいないが。因みに羽島はすぐ見に行っていた。
「そっかー見られちゃってたかー」
あっという間に演技は解け、頬がゆるゆるに溶けている。しまいきれない笑顔をとにかく溢しながら、羽島は僕に向かってピースした。幸福の絶頂ですと顔に書かれている。
「実は、お付きあいすることになりましたー!」
おお、そういうこと。すごいじゃん――拍手つきで口にしながらも、頭の中では小さな疑問が弾けていた。
噂によれば、桜庭は美しいだけでなく、優しく控えめで頭脳明晰であるらしい。
加えて、少し体が弱かったり、ふとした瞬間に憂いを見せるなんて言う、ミステリアスな一面があったりと心くすぐる一面《オプション》も備えていると言う。
そう、彼女は人気必須の人物なのだ。あまり冴えない羽島と違って。
羽島は良く言えば真っ直ぐだが、悪く言って短期な面もあるし、どう考えても釣り合わないよな――なんて言わないけど。
浮かんだ疑問は、目の前の幸せビームに粉砕される。
まぁ、決まったのならそっと見守ることにしよう。なんだか面白そうな気配もするし。一人心で頷いた。
特に大きな事件もなく、日々は流れていく。テレビでは毎日悲劇が更新されているのに、この教室は平和で穏やかだ。
「そんで彩歌ちゃんさ、帰りたくない!なんて言ってくっついてくるんだよ! もう俺興奮してチビるかと思ったわ」
「そっか、それは良かったね」
「マジかわいすぎて最高だわ。永遠に一緒にいてあげたい……この間なんかさ、家の近くに野良猫いたらしくて写真を――」
羽島も上手くやっているようで、毎日きらめきと報告を発射してくる。周囲も彼をおちょくったり、つついたりと二人を祝福していた。もちろん、中には僻む人間もいたけれど。
それでも、教室はどこまでも平和だった。そんな時間が、変わりもせず続くのだと思っていた。
「んんー? なんのことだい赤木くん?」
内容を確信している羽島は、やや得意気に知らんぷりをする。反応から回答を先取りしつつも、敢えて尋ねてやった。
「昨日、〝女神ちゃん〟と帰ってたの見たんだけど。しかも手まで繋いじゃって……どういうこと?」
女神ちゃんとは約一ヶ月間、妙な時期に転校してきた女子――桜庭彩歌のことである。
別の組であるのに関わらず、瞬く間に噂が歩きはじめるほどに美少女――だそうだ。僕は恋愛に興味がなく、見に行ってはいないが。因みに羽島はすぐ見に行っていた。
「そっかー見られちゃってたかー」
あっという間に演技は解け、頬がゆるゆるに溶けている。しまいきれない笑顔をとにかく溢しながら、羽島は僕に向かってピースした。幸福の絶頂ですと顔に書かれている。
「実は、お付きあいすることになりましたー!」
おお、そういうこと。すごいじゃん――拍手つきで口にしながらも、頭の中では小さな疑問が弾けていた。
噂によれば、桜庭は美しいだけでなく、優しく控えめで頭脳明晰であるらしい。
加えて、少し体が弱かったり、ふとした瞬間に憂いを見せるなんて言う、ミステリアスな一面があったりと心くすぐる一面《オプション》も備えていると言う。
そう、彼女は人気必須の人物なのだ。あまり冴えない羽島と違って。
羽島は良く言えば真っ直ぐだが、悪く言って短期な面もあるし、どう考えても釣り合わないよな――なんて言わないけど。
浮かんだ疑問は、目の前の幸せビームに粉砕される。
まぁ、決まったのならそっと見守ることにしよう。なんだか面白そうな気配もするし。一人心で頷いた。
特に大きな事件もなく、日々は流れていく。テレビでは毎日悲劇が更新されているのに、この教室は平和で穏やかだ。
「そんで彩歌ちゃんさ、帰りたくない!なんて言ってくっついてくるんだよ! もう俺興奮してチビるかと思ったわ」
「そっか、それは良かったね」
「マジかわいすぎて最高だわ。永遠に一緒にいてあげたい……この間なんかさ、家の近くに野良猫いたらしくて写真を――」
羽島も上手くやっているようで、毎日きらめきと報告を発射してくる。周囲も彼をおちょくったり、つついたりと二人を祝福していた。もちろん、中には僻む人間もいたけれど。
それでも、教室はどこまでも平和だった。そんな時間が、変わりもせず続くのだと思っていた。
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