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第六話:がんばりはきっと報われる
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本当に人手不足だったらしく、アルバイトは簡単に決まった。とは言え、働くのは明日から二日間だ。
外国から買ったキャンディーを売り歩く仕事で、売れた分だけお金が貰えるらしい。売り上げの何パーセント分、とかいう難しい話をしていたが、よく分からなかったため流した。
頑張った分だけ稼げると分かると、やる気が漲ってくる。もしかすると、吃驚するくらいのお金が稼げるかもしれない。
今の気持ちに乗っかるように、期待も大きく膨らんだ。
***
自宅に辿り着いた。制作した品はどうしても捨てられず、今まで通り裏庭に片付けた。
商品が売れた事とバイトが決まった事、二つの報告を抱いて自宅の扉を引く。
「エマ、今帰ったよ! 良い話があるんだ! 聞いて!」
近頃見せていなかった清々しい顔を見せると、エマも同じような顔で笑った。満面の笑みだ。
「あのね! 一つだけどね! 作った物が売れたんだよ!」
報告をしながら売上金を差し出すと、エマは瞳を真ん丸にして驚いてくれた。物珍しい紙のお金に、そっと指先を乗せ撫でる。
「凄いわ、お兄ちゃん。これって大きいやつよね……」
余程驚いているのだろう。表情の上から笑顔は消えていて、感動だけが残されている。
「うん、コインのよりは大きいやつだよ! でも、もっと大きい値段のお金があるんだって!」
勉強した時に得た情報によると、一番大きなお金は金色をしているらしい。因みに二番目は緑っぽいらしい。
「そうなの? お金って難しいのね。でも本当に凄いわ! お父さんに話す?」
「もちろんだよ!」
話を振られて想像する。作った物が売れた事を話したら、お父さんは僕を誇らしく思ってくれるだろう。
「でも、お金を渡すのはもう少し後にしようかな。あ、でも売れたって言ったらばれちゃうかな! 隠せるかな!」
煙のように広がる空想は、楽しい世界ばかりを見せる。
「あら、どうして隠すの?」
「ここでもう一つの報告です! 二日間だけどお仕事が出来る事になりましたー!」
続く良い報告に、エマは驚きっぱなしだった。笑ったり驚いたり、楽しい顔で忙しそうだ。
「お仕事!? 凄い! 大変そうだけど頑張ってね!」
「うん! いっぱい稼ぐよー! そうしたらきっと、今度こそ一緒に居られるようになるよ!」
「本当!? 一緒に居られるようになったら嬉しいわ!」
「お兄ちゃん頑張るよー!」
今ならなんだって出来る気がした。それほど活力に満たされていて、嬉しい気持ちが溢れていた。
***
疲れで落ちそうになる瞼を抉じ開け、お父さんを待つ。最近は、帰ってくる前に眠ってしまい会えていなかった。
今日は朗報付きだ、きっと満開の笑みを見せてくれるだろう。
今か今かと待っていると、静かに扉が開けられた。
「お父さん、おかえり! 待ってたよ」
「おぉ、なんだヘンリー起きてたのか、珍しいな。何か良い事でもあったのか?」
お父さんは、いつも通り空籠に服を脱ぎ捨てる。夜目が効いて景色は見えていたが、目は合わなかった。
「うん、あのね! 最近僕ね、自分で作った物を売ってみていたんだけどね! それが一つ売れたんだよ!」
座る僕の横に、お父さんは背中を向けて横たわる。もしかすると、お父さんには僕がまだ見えていないのかもしれない。
「そんな事してたのか。お父さん驚いたぞ」
「吃驚したでしょ、凄い!?」
「凄い、さすがだ。さぁもう寝なさい」
「あ、うん……」
想像よりも、遥かに早い締め括りに驚き、呆気に取られてしまう。父親の言葉はそれ以上なく、数秒後には寝息が聞こえてきた。
一気に底に落ちた心は、ただ悲しさと寂しさだけを叫んでいた。
***
寝不足だ。いや、あの後直ぐに眠ったのは眠ったが、それでも疲れが残っている。
しかし、頑張らなくてはいけないのだ。
お金があれば、しかもたくさんのお金があれば、今度こそお父さんは相手にしてくれるだろう。昨日は報告だけだったからいけなかったんだ。
今、我が家に必要なのはお金なのだから、お金があれば振り向いてくれるはずだ。笑顔になってくれる筈だ。
「もっと、もっとたくさん手に入れて吃驚させるんだ……エマの為にも頑張るんだ……」
眠るエマの横顔を見詰めながら、呟く。改めて決意を固め、一足早く洗濯場へ向かった。
***
一仕事終え、直ぐに仕事場へと向かう。同時に何人も募集していたらしく、店には他の子どもや大人が居た。皆、仕事を貰う為に、とある男の前で順番待ちしている。
流れがよく分からないまま、取り合えず列の一番後ろに並んだ。
「じゃあ、君にはこの地図内を任せようかな」
順番が回ってくると、男は地図を渡してきた。所々、インクが滲んで土地の名前が潰れている。
「ここ分かる? 結構近場ではあるんだけど」
しかし、そもそもの話、町の名前を僕は知らなかった。店の名前や建物の名前くらいは分かっても、町そのものの名称までは知らなかった。
「ごめんなさい、町の名前とか分からなくて……多分建物の名前とか言ってもらえれば分かるんですけど……」
「うん、じゃあ説明するね」
男は説明をしながら、手書き地図に更に文字を足して行く。残念な事に、記憶にない町のようだ。
しかし、ここで分からないの一点張りでは、仕事を貰えないかもしれない。
それは困ると、どうにか説明を頭に詰め込んだ。場所の他にも、売る方法やお金のことなど、様々な説明を受けた。
早々と、不安が押し寄せてきた。
***
地図と町を見比べたり、聞き込みをしたりしながら、数分かけてやっと目的地に辿り着いた。あまり大きな心配は要らなかったらしい。
抱えてきた大きな箱を、一旦地上に下ろす。中を確認すると、キャンディーが大量に詰め込まれていた。これは重いはずだ、とたくさんのキャンディーを前に溜め息が出た。
与えられた仕事は一つ。このキャンディーをこの町の人に売る事。
売れた分だけお金が貰える。いわゆる、頑張ればその分、確実にお金が入るということだ。
幸いな事に、担当の町は人通りが多いらしい。人の感じが僕の住む町と似ていて、貧しそうな人からお金持ちまで歩いている。
先ほどの不安は少し薄まり、希望が湧き出てきた。早い時間にキャンディーがなくなり、軽くなった箱と共に戻る姿を想像する。
ワクワクとまでしてきて、自然と大きな呼び声が出てきた。
外国から買ったキャンディーを売り歩く仕事で、売れた分だけお金が貰えるらしい。売り上げの何パーセント分、とかいう難しい話をしていたが、よく分からなかったため流した。
頑張った分だけ稼げると分かると、やる気が漲ってくる。もしかすると、吃驚するくらいのお金が稼げるかもしれない。
今の気持ちに乗っかるように、期待も大きく膨らんだ。
***
自宅に辿り着いた。制作した品はどうしても捨てられず、今まで通り裏庭に片付けた。
商品が売れた事とバイトが決まった事、二つの報告を抱いて自宅の扉を引く。
「エマ、今帰ったよ! 良い話があるんだ! 聞いて!」
近頃見せていなかった清々しい顔を見せると、エマも同じような顔で笑った。満面の笑みだ。
「あのね! 一つだけどね! 作った物が売れたんだよ!」
報告をしながら売上金を差し出すと、エマは瞳を真ん丸にして驚いてくれた。物珍しい紙のお金に、そっと指先を乗せ撫でる。
「凄いわ、お兄ちゃん。これって大きいやつよね……」
余程驚いているのだろう。表情の上から笑顔は消えていて、感動だけが残されている。
「うん、コインのよりは大きいやつだよ! でも、もっと大きい値段のお金があるんだって!」
勉強した時に得た情報によると、一番大きなお金は金色をしているらしい。因みに二番目は緑っぽいらしい。
「そうなの? お金って難しいのね。でも本当に凄いわ! お父さんに話す?」
「もちろんだよ!」
話を振られて想像する。作った物が売れた事を話したら、お父さんは僕を誇らしく思ってくれるだろう。
「でも、お金を渡すのはもう少し後にしようかな。あ、でも売れたって言ったらばれちゃうかな! 隠せるかな!」
煙のように広がる空想は、楽しい世界ばかりを見せる。
「あら、どうして隠すの?」
「ここでもう一つの報告です! 二日間だけどお仕事が出来る事になりましたー!」
続く良い報告に、エマは驚きっぱなしだった。笑ったり驚いたり、楽しい顔で忙しそうだ。
「お仕事!? 凄い! 大変そうだけど頑張ってね!」
「うん! いっぱい稼ぐよー! そうしたらきっと、今度こそ一緒に居られるようになるよ!」
「本当!? 一緒に居られるようになったら嬉しいわ!」
「お兄ちゃん頑張るよー!」
今ならなんだって出来る気がした。それほど活力に満たされていて、嬉しい気持ちが溢れていた。
***
疲れで落ちそうになる瞼を抉じ開け、お父さんを待つ。最近は、帰ってくる前に眠ってしまい会えていなかった。
今日は朗報付きだ、きっと満開の笑みを見せてくれるだろう。
今か今かと待っていると、静かに扉が開けられた。
「お父さん、おかえり! 待ってたよ」
「おぉ、なんだヘンリー起きてたのか、珍しいな。何か良い事でもあったのか?」
お父さんは、いつも通り空籠に服を脱ぎ捨てる。夜目が効いて景色は見えていたが、目は合わなかった。
「うん、あのね! 最近僕ね、自分で作った物を売ってみていたんだけどね! それが一つ売れたんだよ!」
座る僕の横に、お父さんは背中を向けて横たわる。もしかすると、お父さんには僕がまだ見えていないのかもしれない。
「そんな事してたのか。お父さん驚いたぞ」
「吃驚したでしょ、凄い!?」
「凄い、さすがだ。さぁもう寝なさい」
「あ、うん……」
想像よりも、遥かに早い締め括りに驚き、呆気に取られてしまう。父親の言葉はそれ以上なく、数秒後には寝息が聞こえてきた。
一気に底に落ちた心は、ただ悲しさと寂しさだけを叫んでいた。
***
寝不足だ。いや、あの後直ぐに眠ったのは眠ったが、それでも疲れが残っている。
しかし、頑張らなくてはいけないのだ。
お金があれば、しかもたくさんのお金があれば、今度こそお父さんは相手にしてくれるだろう。昨日は報告だけだったからいけなかったんだ。
今、我が家に必要なのはお金なのだから、お金があれば振り向いてくれるはずだ。笑顔になってくれる筈だ。
「もっと、もっとたくさん手に入れて吃驚させるんだ……エマの為にも頑張るんだ……」
眠るエマの横顔を見詰めながら、呟く。改めて決意を固め、一足早く洗濯場へ向かった。
***
一仕事終え、直ぐに仕事場へと向かう。同時に何人も募集していたらしく、店には他の子どもや大人が居た。皆、仕事を貰う為に、とある男の前で順番待ちしている。
流れがよく分からないまま、取り合えず列の一番後ろに並んだ。
「じゃあ、君にはこの地図内を任せようかな」
順番が回ってくると、男は地図を渡してきた。所々、インクが滲んで土地の名前が潰れている。
「ここ分かる? 結構近場ではあるんだけど」
しかし、そもそもの話、町の名前を僕は知らなかった。店の名前や建物の名前くらいは分かっても、町そのものの名称までは知らなかった。
「ごめんなさい、町の名前とか分からなくて……多分建物の名前とか言ってもらえれば分かるんですけど……」
「うん、じゃあ説明するね」
男は説明をしながら、手書き地図に更に文字を足して行く。残念な事に、記憶にない町のようだ。
しかし、ここで分からないの一点張りでは、仕事を貰えないかもしれない。
それは困ると、どうにか説明を頭に詰め込んだ。場所の他にも、売る方法やお金のことなど、様々な説明を受けた。
早々と、不安が押し寄せてきた。
***
地図と町を見比べたり、聞き込みをしたりしながら、数分かけてやっと目的地に辿り着いた。あまり大きな心配は要らなかったらしい。
抱えてきた大きな箱を、一旦地上に下ろす。中を確認すると、キャンディーが大量に詰め込まれていた。これは重いはずだ、とたくさんのキャンディーを前に溜め息が出た。
与えられた仕事は一つ。このキャンディーをこの町の人に売る事。
売れた分だけお金が貰える。いわゆる、頑張ればその分、確実にお金が入るということだ。
幸いな事に、担当の町は人通りが多いらしい。人の感じが僕の住む町と似ていて、貧しそうな人からお金持ちまで歩いている。
先ほどの不安は少し薄まり、希望が湧き出てきた。早い時間にキャンディーがなくなり、軽くなった箱と共に戻る姿を想像する。
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