10 / 11
アルナイル―6
しおりを挟む
ショベルカーで削られたかのように、岩が抉れている。壊れた岩は下の道に流れ、道を破壊したまま止まっていた。壊した道の一部も、土も、色々なものをまぜこぜにして。
「ミラさんの大好きな方は、一体どこに……」
軽く辺りを見回したが、やはり人の気配はない。それどころか、動物の気配すらなかった。
待ち合わせをするにしても、この場所は変だ。
「……数年前ね、私達は事故にあったの。散歩中、崩れてきた岩屑流に巻き込まれたのよ」
説明された瞬間、全てを悟った。崩れた道も、足のことも、大好きな人の居場所も――。
「旦那はね、その時に死んでしまったの」
凄惨な事故現場を前に、ミラは泣いていた。涙で頬に細い線を描いている。
「そして、運がいいのか悪いのか、私だけがこうして生き残ってしまったのよ」
ミラが、不安定に立ち上がる。危なっかしく揺れる体を、抱くように支えた。
無残に壊れた、自然が痛々しい。
あの願いに、こんな意味が隠されていたなんて。
「彼の遺体は、まだあの中にあるわ。だから、ここにいるって言ったのよ。そして、魂もここにいる」
幾粒もの雫を落としながらも、ミラはずっと現場を見つめていた。愛しさと悲しさが、共に宿る瞳だ。
場違いながら、その瞳で見詰められたいと感じてしまった。
「……って、ずっとそう思っていたけど、もしかすると違うかもしれない」
「えっ?」
早速、願いが通じたのか、ミラはこちらを見ていた。涙で覆われた瞳は、少し細くなっている。
「もっと、違う所にいる気がしてきたの」
ミラの中で、何が起こったのかは分からない。しかし、笑顔ゆえ良い何かなのは間違いないだろう。
とは言え、これでは試験失敗だ。ミラの願いを叶られなかった。
大好きな人に、会うとの願いを。
「……どちらにせよ、願い叶えられませんでしたね」
だが。
「いいえ、叶ったわ。だって会えたもの」
ミラは、浅く首を横振りした。涙がそうさせているのか、溶けそうな微笑みで僕を見る。
その左手が、頬に添えられた。
「ここまで連れて来てくれてありがとう。貴方に出会えて良かった。貴方に出会えたから、もう少し未来を見てみたくなったわ……」
向けられた笑顔に、言い表せない感慨を覚えた。じんわりと胸が熱くなり、嬉しくて涙まで出そうになる。
――よし、決めた。
視線の端、何かが動いた。釣られて見ると、ミラの右手が大空を指差していた。
「見て、星がよく見えるわ。生まれてくる貴方に会えるよう、願ったら届くかしら」
澄んだ空気の中、星々が輝いている。二人の上にも、抉れた山の上にも、燦々と。
「はい、絶対叶いますよ」
空を見詰める。今日は、絶好のお願い日和だ。きっと、ここからでも空に声が届くだろう。
「だって、僕もお願いしますから」
小さく、言葉を唱える。それを聞いてか、ミラも似たような言葉を紡ぎ始めた。
そうして、言い終わって二人で笑う。
「絶対、会えますね」
「そうね、絶対会いましょう。私、貴方が来てくれるのを楽しみにしているわ」
二人分の声だ。願いは必ず叶うだろう。
「ミラさんの大好きな方は、一体どこに……」
軽く辺りを見回したが、やはり人の気配はない。それどころか、動物の気配すらなかった。
待ち合わせをするにしても、この場所は変だ。
「……数年前ね、私達は事故にあったの。散歩中、崩れてきた岩屑流に巻き込まれたのよ」
説明された瞬間、全てを悟った。崩れた道も、足のことも、大好きな人の居場所も――。
「旦那はね、その時に死んでしまったの」
凄惨な事故現場を前に、ミラは泣いていた。涙で頬に細い線を描いている。
「そして、運がいいのか悪いのか、私だけがこうして生き残ってしまったのよ」
ミラが、不安定に立ち上がる。危なっかしく揺れる体を、抱くように支えた。
無残に壊れた、自然が痛々しい。
あの願いに、こんな意味が隠されていたなんて。
「彼の遺体は、まだあの中にあるわ。だから、ここにいるって言ったのよ。そして、魂もここにいる」
幾粒もの雫を落としながらも、ミラはずっと現場を見つめていた。愛しさと悲しさが、共に宿る瞳だ。
場違いながら、その瞳で見詰められたいと感じてしまった。
「……って、ずっとそう思っていたけど、もしかすると違うかもしれない」
「えっ?」
早速、願いが通じたのか、ミラはこちらを見ていた。涙で覆われた瞳は、少し細くなっている。
「もっと、違う所にいる気がしてきたの」
ミラの中で、何が起こったのかは分からない。しかし、笑顔ゆえ良い何かなのは間違いないだろう。
とは言え、これでは試験失敗だ。ミラの願いを叶られなかった。
大好きな人に、会うとの願いを。
「……どちらにせよ、願い叶えられませんでしたね」
だが。
「いいえ、叶ったわ。だって会えたもの」
ミラは、浅く首を横振りした。涙がそうさせているのか、溶けそうな微笑みで僕を見る。
その左手が、頬に添えられた。
「ここまで連れて来てくれてありがとう。貴方に出会えて良かった。貴方に出会えたから、もう少し未来を見てみたくなったわ……」
向けられた笑顔に、言い表せない感慨を覚えた。じんわりと胸が熱くなり、嬉しくて涙まで出そうになる。
――よし、決めた。
視線の端、何かが動いた。釣られて見ると、ミラの右手が大空を指差していた。
「見て、星がよく見えるわ。生まれてくる貴方に会えるよう、願ったら届くかしら」
澄んだ空気の中、星々が輝いている。二人の上にも、抉れた山の上にも、燦々と。
「はい、絶対叶いますよ」
空を見詰める。今日は、絶好のお願い日和だ。きっと、ここからでも空に声が届くだろう。
「だって、僕もお願いしますから」
小さく、言葉を唱える。それを聞いてか、ミラも似たような言葉を紡ぎ始めた。
そうして、言い終わって二人で笑う。
「絶対、会えますね」
「そうね、絶対会いましょう。私、貴方が来てくれるのを楽しみにしているわ」
二人分の声だ。願いは必ず叶うだろう。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる