星が降ったのは

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アルナイル―5

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 闇に覆われてゆく風景を、ミラは愛しげに見つめている。海を越え、町を超え、田舎に入り、もうすっかり人の気配は消え去った。家すら殆ど見えなくて、あっても廃墟と化した家屋だけだ。

 海から随分と歩いた。だが、ミラはまだ到着だと言わない。
 一体、ミラの会いたい人はどこにいるのだろう。

「見て、星が綺麗よ。さっきより輝いているわ」

 言葉に釣られ、見上げた空は藍色になっていた。仲間たちの輝きが鮮明に見える。濃淡はあれど、皆懸命に放っている様子だ。

「本当だ。とても綺麗ですね」

 つい昨日は、自分もあの中にいた。そう思うと、何だか不思議な気分になる。
 加えて、あるはずもない懐かしさを感じ、更に不思議な気持ちになった。

「……ねぇ、変なこと聞くんだけど、貴方はあそこから来たの?」

 不意打ちな問いに、目も心も地へと引き戻される。半身を翻した、ミラがこちらを見ていた。
 そう言えば、すっかり話しそびれていた。

「そうです。僕は星なんです。貴方の願いが聞こえたから、ここに来たんです」

 にっこり笑うと、ミラの指先が伸びてきた。眼前を横切り、耳の横の髪を掬われる。

「……そう。だから髪がキラキラしてるのね」

 言われて気付いた。金髪が、星のように光っている。淡くだが、確かに。
 人の形を取ったのが初めてだったからか、違和感など微塵もなかった。

「そう言えば、ミラさんの髪は綺麗なのに光ってませんね。僕も人になったら光らないのかな」

 ミラの髪を、同じように掬ってみる。さらさらとした長い髪は、指で解けて優しく落ちた。

「人になるの?」

 丸い瞳へ、視線が誘導される。ミラの柔らかな表情は、本当に美しい。

「はい。願いを上手く叶えられると人になれるんです」

 人になれたら、その時は再び隣に立ちたい。隣に立って、ミラをずっと見ていたい。
 この感情を、以前もどこかで感じた気がする。

「貴方達は人じゃなかったの?」
「なんですか、それ?」

 ミラは、向けていた体を戻した。車椅子に深く腰かけ、空ではなく地を見る。

「いえ、私はてっきり人が星になるのだと思っていたから……この世界ではそう言われることがあるのよ」

 人間界にも、星の世界と似た何かがあるのだろう。人も、試練を受けて星になったりするのだろうか。

「そうなんですか。不思議です。でも、星が人になれるんだから人が星にもなることも出来ますよね。ところで、それはやっぱり試験とか受けて……」
「さぁ、着いたわ」

 唐突な到着に、少し驚いた。人の気配はなく、道も舗装がなく危ういほどだったからだ。
 そんな場所が、目的地だなんて思ってもみなかった。

「あそこよ」
「えっ」

 ミラが指した先を見遣る。数十メートルほど先、星の輝く空の下には、盛大に崩れた岩山があった。
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