星が降ったのは

ミラ―３

　現住所もあるビル街を抜け、人の少ない領域に入る。懐かしい空気に、また胸が痛くなった。
　ぽつぽつと立つ家、古びた橋、至る所にある果樹園。そんな長閑な場所に、嘗ては二人で住んでいた。

　愛しい人との日々は、本当に幸せだった。

　双方の両親から、結婚を反対された。結局、認められないまま駆け落ちした。そうして、何もない街で一から生活を始めた。
　お金も知人もない生活は、大変だったけれど、それ以上に幸福だった。

　衣食住で手一杯になり、当然金の掛かる娯楽は窘めない。だから、二人にとっての楽しみは散歩だった。

　押された車椅子が、舗装された地面を滑る。弱まってきた日差しに照らされ、頬がほんのりと火照る感覚が懐かしい。

『今日は晴れているから、絶好の散歩日和だな！』

　声もない、言葉だけになってしまった記憶を思い出す。
　あの人も、晴天の度にそう言っていた。朝でも夜でもお構い無しで、私を外へと連れ出した。
　行き先や距離は定めず、心の向くままに散策する。そんな囁かな時間が、本当に幸せだった。

　いや、二人でいられる、ただそれだけで良かったのかもしれない。
　そう、それだけで良かったのに。