星が降ったのは

有箱

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ミラ―2

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 車椅子を押してもらいながら、ミラは数年前の日々を懐古していた。後ろでは、アルナイルと名乗る少年が鼻歌を歌っている。
 その歌は、偶然にも思い出深き曲だった。

「私の好きな人もね、その曲よく歌ってたのよ。しかも鼻歌で」
「そうなんですか! じゃあこれも運命かもしれませんね!」

 アルナイルは、快晴の空を見て再び歌い出す。音の外し方や歌い方の癖まで似ていて、妙な気持ちになった。

 正直、この少年の正体が分からない。不審人物だと言ってしまえば、それに違いはない。
 しかし、拒絶しようとも、正体を突き止めようとも思わなかった。彼がストーカーでも非現実な存在でも、今はどうでも良かった。

「あ、次を右に曲がって」

 突き当たりを指差すと、アルナイルは溌剌と返事した。そうしてから、僅かに顔を覗き込んでくる。

「あの、僕、道を教わりながらご一緒するだけで本当に良いんですか?」
「えぇ」
「そうですかー」

 再確認が済んだのか、アルナイルは軽い笑みを飾る。体の軸を戻し、道を曲がった。
 道の先には、無人駅が見えた。つい数時間前、訪れていた場所だ。

「なら、折角なのでお散歩を楽しみましょうか! 今日はこんなにも晴れ晴れしていて、絶好のお散歩日和ですから!」

 嬉々として放たれた語句に、記憶が蘇る。眩しいくらいの太陽光が、胸に小さな痛みを齎した。

「……そうね」
「そうだ! 今から会いにいく人が、どんな人か聞かせて下さい!」

 声を助けに、苦い記憶を追いやる。だが、直ぐに蘇ってしまった。

 当たり前だ。幸福も愛しさも全て、あの日を通じてしか、見られなくなってしまったのだから。
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