強気な赤ずきんと弱虫オオカミくん

有箱

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第二十八話

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 冬になると、花がとても少なくなる。
 赤ずきんは机に飾る花を探しに、今日も一人外に出ていた。
 色の少なくなった大地の上を、キレイな花を探しに歩き出す。

 いつもオオカミ少年がいる茂みに、ちらりと目線をやったが誰かがいる感じはなかった。
 赤ずきんは何の気もなしに、小さな小さな溜め息をついた。



 オオカミ少年は、いつもと違う茂みから赤ずきんを見ていた。きょろきょろとする赤ずきんを、じーっと見つめる。
 花を探している事は、今まで何度か見ていたからすぐに分かった。

「……きれいなお花をあげたら、赤ずきんもお友だちになってくれるかな…」

 オオカミ少年はひらめき、すばやく駆け出した。

 けれど、森は寒さに弱いのか、きれいな花がぜんぜん見つけられない。
 これでは赤ずきんを喜ばせてあげられないなぁ。
 オオカミ少年は、走り回りながらも残念そうに「はーっと」息を吐いた。透明のはずの息が白色になる。

「……もうちょっとがんばろうかな」

 よし!と握り拳を作りがんばりを入れたオオカミ少年を、カナリアのカナが空から見ていた。



 オオカミ少年ががんばっている頃、赤ずきんはきれいな花を見つけていた。洞くつの中はまだあたたかかったからか、咲いた花が残っていたのだ。

 探してくれているなんて知らない赤ずきんは、せっせと咲いている花をつむ。
 花はかごいっぱいにはならなかったが、それでも机を美しくするのには十分だと思えた。

 あるだけ取って、赤ずきんはすぐにおばあさんの家に戻る。
 だが、その途中でロイに出会った。

「やぁ赤ずきん、お散歩かい?」
「花摘みよ、冬は花が少ないから中々大変だったわ」
「そうだね、ずいぶんと寒くなったもんな」

 ロイは辺りを見回すと、枯れた木に目を向ける。
 赤ずきんも一緒になって、さみしげな森の色を眺めた。

「森も少しさみしくなるわね、そう言えばあれからどう?」
「『どう』と言うのは?」

 ロイは何の事か分からないみたいだった。それもそのはずだ、ロイはあのお茶会には来ていなかったのだから。

「オオカミよ、見かける?」

 だが、ちゃんと名前を出したら、分かってくれた。

「あぁ、仲間といるのをよく見かけるよ。けれどこの間は何だかさみしそうな顔をしていたなぁ」

 赤ずきんは、イメージしていた答えとは逆の言葉に首をかしげる。

「……さみしそう?」

 絶対楽しく笑っていると思っていたのに、さみしい顔をするなんてなんでだろう。

「まぁ、見かけただけだから間違いかもしれないがな」
「そう、ありがとう」

 ロイは、手を振りさっさと走っていってしまった赤ずきんを、不思議そうに見送った。

「おばあさん!なんでかしら!」

 帰ってきてすぐ中身の分からない質問をしてきた赤ずきんに、おばあさんは丸い目を向けてしまった。

「どうしたの?赤ずきん」
「オオカミがさみしい顔してたって言うのよ、これっていじめられてるってことなのかしら?」

 だが、どういうことか分かってすぐに笑う。
 おばあさんはオオカミ少年の口からの言葉で、ちゃんとさみしい顔をする理由を知っていたため、上手に言葉をあみあげた。

「うーん、でもお友だちとは上手くやってるんでしょう?だったら、別の理由があるんじゃない?」
「ま、まぁ、一緒にいるところは見かけたって聞いたわ」

 赤ずきんはおばあさんの考えにうなづいた。
 たしかに、いじめられているなら一緒にいようとは思わないはずだ。
 だったら、さみしそうな理由はなんだろう。
 あの分かりやすいオオカミ少年の事だ、ロイが見まちがえたというのも違う気がする。

「別の理由ってなにかしら…?」
「うーん、例えば赤ずきんに会えなくてさみしいとかね」
「いや、それは無いでしょ」

 さらっと首を振った赤ずきんに、おばあさんは困り笑う。
 いっそ『オオカミちゃんが気にしていたよ』と言ってしまえば、上手いこといくだろう。けれどオオカミ少年は、家に来たことや気にしていた事を知られたくないみたいだし。
 おばあさんは困って、うーんと心の中で悩んだ。

「本人に聞くしかないわね」

 赤ずきんは言いながら、つんできたばかりの花を花びんにさす。
 おばあさんは、きっかけが生まれそうな事に、ひっそりと喜んだ。
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