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第八話
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(オオカミ少年はまだ少し固くなっていたものの)三人で楽しく会話を交わしながらティータイムを過ごしている中、赤ずきんはふと見上げた空の色が夕焼け色になってきたのに気付いた。
「あら、もうこんな時間、そろそろ片づけなくちゃ」
「えっ、もう?」
楽しい時間を終わらせる赤ずきんの声に、オオカミ少年は残念な声をあげてしまっていた。
正直な気持ち、まだこうしてお茶をしていたいと思ったのだ。
だが次に聞こえたおばあさんの声は、オオカミ少年ではなく赤ずきんに答えていた。
「そうね、そろそろ帰らないとお母さんとお父さんが心配するものね」
「…そっかー…」
だが、オオカミ少年は入っていた二つの単語に、すぐ気持ちをおさえた。
お母さんとお父さんという響きがなつかしく、うらやましいものに思えたのだ。すぐに気分が落ち込んでくる。
「オオカミちゃんは帰らなくて良いの?」
いつの間にか始まっていた片づけをしながら、おばあさんに何気なく問いかけられ、オオカミ少年はつい本当の気持ちを漏らしてしまった。
「…うん…お母さんとお父さん居ないからー…」
そんなしおれた声を聞いて、おばあさんはあやまる。
「あらあらごめんね…」
だが赤ずきんに、ごめんをする気はなかった。
「でもあんたオオカミなんだから大丈夫でしょ、ちゃんと帰りなさいよ」
おばあさんになぐさめられて少し嬉しかったのもちょっとで、赤ずきんにいい捨てられオオカミ少年はすぐにいつもの自分になってしまった。
「わ、分かってるよ!」
「じゃあ早く片づけちゃいましょ!」
そう言うと赤ずきんは、家に持ってゆくためにまとめた物を『よいしょ』とかけ声を出して持ち上げた。
一気に片づけたいのか、その量は結構すごかった。
◇
あっという間に元通りになった庭を見て、オオカミ少年は少しさみしさを覚えた。心に小さな穴が空いたようなさみしさだ。
赤ずきんとは向かいあって、おばあさんとオオカミ少年が並んで立つ。
「じゃあ帰るわ、おみやげもありがとう!」
そういった赤ずきんは、残った食べ物を少し入れたかごを腕に下げて、二人に背中を向けた。
「えぇ、また明日」
おばあさんがにこにこ顔で小さく手をふると、赤ずきんも顔を振り向かせて大きく手を振った。
「えぇ!またねー」
キラキラした笑顔を見て、オオカミ少年も少し口を笑わせてみた。
が、そのすぐ後、赤ずきんから強い言葉が落とされる。
「あ、あんたも早く帰りなさいよ」
表情はオオカミ少年が知る、いつものするどい顔だった。また、オオカミ少年の強がりが働く。
「だから、分かってるって!」
赤ずきんは答えを全部聞くと、帰る方へ歩いていってしまった。
◇
その姿を見えなくなるまで見送ると、赤ずきんに言われたことを思い出し、思いとは反対の言葉を口にした。
「…じゃあおばあさん、帰るね…」
そう言いながらとぼとぼと足を踏み出そうとした時、おばあさんがその背を止めた。
「あら、帰るの?」
オオカミ少年は甘えたい心をがまんして、しょぼんとした顔でおばあさんを見る。
「…だって赤ずきんが帰りなさいっていってたし…」
オオカミ少年は赤ずきんの帰る姿をしっかりと見たはずなのに、どうしてか赤ずきんを恐れた。
「そうなのー…、私はもう少しおしゃべりしたいと思ったんだけどね~…さっきの残りもあるし」
だが、おばあさんの甘い誘いに心が大きく揺れる。
「え、えっと」
いつしか根付いた¨赤ずきんには逆らえない¨という気持ちが、オオカミ少年の心を右へ左へと大きく揺らす。
まだお茶をしていたいという心と、言いつけは守らなくてはと言う心が大きく大きくゆらゆらと揺れる。
迷いで頭をぐるぐるさせているオオカミ少年に、おばあさんは本当の気持ちを引き出すように、優しく上手に言葉を重ねてゆく。
「していかない?赤ずきんに内緒ならいいと思うけど?」
おばあさんの優しい笑顔と上手な言葉に、オオカミ少年は赤ずきんへの恐れを少しだけ小さくした。
そして一言。
「…本当に内緒にしてくれる?」
おばあさんは、欲しかった答えがようやく出てきてくれて、笑顔をもっと強くした。
「えぇ、良いわよ」
赤ずきんの気持ちとオオカミ少年の気持ちを両方知っているおばあさんは、上手く行かない二人を見て心配していたのだった。
いや、どちらかといえばオオカミ少年が逃げているだけにも見えるが。
「オオカミちゃんと一緒に仲良く出来てすごく嬉しいわ」
おばあさんは誘いに応じてくれたオオカミ少年に、一言そう言った。
「あら、もうこんな時間、そろそろ片づけなくちゃ」
「えっ、もう?」
楽しい時間を終わらせる赤ずきんの声に、オオカミ少年は残念な声をあげてしまっていた。
正直な気持ち、まだこうしてお茶をしていたいと思ったのだ。
だが次に聞こえたおばあさんの声は、オオカミ少年ではなく赤ずきんに答えていた。
「そうね、そろそろ帰らないとお母さんとお父さんが心配するものね」
「…そっかー…」
だが、オオカミ少年は入っていた二つの単語に、すぐ気持ちをおさえた。
お母さんとお父さんという響きがなつかしく、うらやましいものに思えたのだ。すぐに気分が落ち込んでくる。
「オオカミちゃんは帰らなくて良いの?」
いつの間にか始まっていた片づけをしながら、おばあさんに何気なく問いかけられ、オオカミ少年はつい本当の気持ちを漏らしてしまった。
「…うん…お母さんとお父さん居ないからー…」
そんなしおれた声を聞いて、おばあさんはあやまる。
「あらあらごめんね…」
だが赤ずきんに、ごめんをする気はなかった。
「でもあんたオオカミなんだから大丈夫でしょ、ちゃんと帰りなさいよ」
おばあさんになぐさめられて少し嬉しかったのもちょっとで、赤ずきんにいい捨てられオオカミ少年はすぐにいつもの自分になってしまった。
「わ、分かってるよ!」
「じゃあ早く片づけちゃいましょ!」
そう言うと赤ずきんは、家に持ってゆくためにまとめた物を『よいしょ』とかけ声を出して持ち上げた。
一気に片づけたいのか、その量は結構すごかった。
◇
あっという間に元通りになった庭を見て、オオカミ少年は少しさみしさを覚えた。心に小さな穴が空いたようなさみしさだ。
赤ずきんとは向かいあって、おばあさんとオオカミ少年が並んで立つ。
「じゃあ帰るわ、おみやげもありがとう!」
そういった赤ずきんは、残った食べ物を少し入れたかごを腕に下げて、二人に背中を向けた。
「えぇ、また明日」
おばあさんがにこにこ顔で小さく手をふると、赤ずきんも顔を振り向かせて大きく手を振った。
「えぇ!またねー」
キラキラした笑顔を見て、オオカミ少年も少し口を笑わせてみた。
が、そのすぐ後、赤ずきんから強い言葉が落とされる。
「あ、あんたも早く帰りなさいよ」
表情はオオカミ少年が知る、いつものするどい顔だった。また、オオカミ少年の強がりが働く。
「だから、分かってるって!」
赤ずきんは答えを全部聞くと、帰る方へ歩いていってしまった。
◇
その姿を見えなくなるまで見送ると、赤ずきんに言われたことを思い出し、思いとは反対の言葉を口にした。
「…じゃあおばあさん、帰るね…」
そう言いながらとぼとぼと足を踏み出そうとした時、おばあさんがその背を止めた。
「あら、帰るの?」
オオカミ少年は甘えたい心をがまんして、しょぼんとした顔でおばあさんを見る。
「…だって赤ずきんが帰りなさいっていってたし…」
オオカミ少年は赤ずきんの帰る姿をしっかりと見たはずなのに、どうしてか赤ずきんを恐れた。
「そうなのー…、私はもう少しおしゃべりしたいと思ったんだけどね~…さっきの残りもあるし」
だが、おばあさんの甘い誘いに心が大きく揺れる。
「え、えっと」
いつしか根付いた¨赤ずきんには逆らえない¨という気持ちが、オオカミ少年の心を右へ左へと大きく揺らす。
まだお茶をしていたいという心と、言いつけは守らなくてはと言う心が大きく大きくゆらゆらと揺れる。
迷いで頭をぐるぐるさせているオオカミ少年に、おばあさんは本当の気持ちを引き出すように、優しく上手に言葉を重ねてゆく。
「していかない?赤ずきんに内緒ならいいと思うけど?」
おばあさんの優しい笑顔と上手な言葉に、オオカミ少年は赤ずきんへの恐れを少しだけ小さくした。
そして一言。
「…本当に内緒にしてくれる?」
おばあさんは、欲しかった答えがようやく出てきてくれて、笑顔をもっと強くした。
「えぇ、良いわよ」
赤ずきんの気持ちとオオカミ少年の気持ちを両方知っているおばあさんは、上手く行かない二人を見て心配していたのだった。
いや、どちらかといえばオオカミ少年が逃げているだけにも見えるが。
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