はうとゅーえんじょいおぶとろぴかるないと

有箱

文字の大きさ
上 下
6 / 7

とびっきりのとくべつなひ④

しおりを挟む
 入浴を終えた頃には、十一時を回っていた。眠くもなるはずだ、と目を擦る。お茶のお代わりを手に、二人して最初の配置へと戻った。一時的にクールダウンした体が、眠気によって再び熱を持ち出す。

「涼海、結構限界でしょ。これ飲んだら寝ようか」

 グラスを傾けながら、柚が終わりへと誘ってきた。しかし、まだ眠りたくないとの意地が働き、特別な出来事を探す。ギブアップした頭の代わり、瞳が見つけたのはDVDデッキだった。

「あっ、映画見ようよ映画!」
「え、六時間? 涼海絶対寝るよ」
「寝ない!」

 今夜は徹夜するぞ――そう心に決め、リモコンを取る。目配せで許可を求めると、小さな笑顔で大きく頷いてくれた。

 再生準備の傍ら、柚が立ち上がる。スマホの充電を連想し、私の分も頼んだ。録画一覧から、お目当ての番組を探し出す。

 私と柚は、番組の趣向も違った。ドラマにしても映画にしても、二択あれば逆を選ぶ。ゆえに、選択が被った時の喜びは大きかった。

「柚ーはじまるよー」

 再生ボタンに力を込める。と同時に、テレビと私の間が阻まれた。そこに吊るされていたのは、二本のアイスだった。バニラ味とチョコ味がある。

「はい」
「えっ」
「特別。どっちがいい?」

 思わぬサプライズに、指先が迷う。しかし、一個前と逆が良いとの結論に達した。

「こっち!」

 数ある柚との美味しい記憶に、新たな一ページが加わった。それも、結構上位の方かもしれない。
 
 肘掛けの向こう、扇風機が風を起こす。俳優の台詞が、段々形を失っていく。柚がCMを飛ばす時にだけ、少しだけ現実へ引っ張られた。
 それを繰り返し、少しずつ少しずつ戻れなくなってゆく。体まで連れ去られ頭が前に落ちかけた時、頬へ冷たい刺激が伝った。

 ハッと目を覚ます。宛てがわれていたのは氷枕だった。私を驚かせた刺激が、すぐに心地よいものへと変わる。

 柚は水枕を自分の腿へと移動させた。タップ二回で誘導され、吸われるように従う。頭から伝わる冷気は、身体中の熱を優しく緩和した。朧気な過去の感覚が蘇る。

「ひんやりして気持ちいい~」
「懐かしくなるでしょ」
「うん。熱出した時、必ず持ってきてくれたよね」

 そう言えば、もうすっかり出さなくなったよね――言おうとしたが、声が勝手に役目を放棄した。
 気付けば俳優の声は溶け、どこかへと消えていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

こんな夢見ちゃったよ

鶴山葵土
大衆娯楽
アニヲタである筆者がその日見た夢を覗いてみませんか?

【新規連載中!】ビーツセイバーで世界ランカーの私は異世界でもやっぱりはぐれ者、されど最速「人間関係は狭く深く派なだけだから!」

茶夏 ひのこ
ファンタジー
根暗でちょっぴりおかしい所のある高校一年生、友星 星葉(ともほし せいば)は、大人気ゲーム"ビーツセイバー"の世界ランカーだった。  だが、ひょんな事から異世界へ転生することとなる。唯一の友だちと離れ離れになったことを悟り現実に打ちひしがれるも、この世界で生きていく理由を見つける。  新しい環境に翻弄されながらも、ゲームで得た知識と経験を活かして突き進む、そんな不器用でコミュ障なはぐれ者がお送りするゆる百合異世界ファンタジー。 【ビツそく】をどうぞよろしくお願い致します(五体投地)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

骨壺屋 

内藤 亮
大衆娯楽
尚子は家電メーカーで、営業畑の一線を走ってきた。家電のことは私に任せて! ところが、尚子の所属部門が海外メーカーと合併することになり、会社が早期退職者を募ることに。 はい! 尚子は会社を退職することに決めた。自分の夢を叶えるために。  完結作品です。ご安心を!  作中に出てくる獣医師夫婦の出会いは、エブリスタにて掲載中です(^-^)/ 『闇の継承者』伝奇っぽい話です。

処理中です...