はうとゅーえんじょいおぶとろぴかるないと

有箱

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とびっきりのとくべつなひ①

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 気持ちが上向きになったからか、頭の中に突然名案が降ってきた。

「そうだ! 折角だし今日はとびきり特別な日にしちゃおうよ!」
「例えば?」

 戻ってきた柚の手から、チョコ味のアイスが渡る。もう片手にも同じアイスを見つけ、ついはにかんでしまった。

 数時間前と同じ配列で、アイスにかじりつく。ひんやりと口内を冷やす甘味が、特別で格別だ。ついつい何度も、うま~を放ってしまった。

 食べ進めながら、特別な夜のメニューを考える。一つ目はすぐに見つかった。

「夜更かしとかどう? どうせ暑いと寝れないし! あとは~」
「……いいかもね。色々やってみよっか、特別なこと」
「やったー!」

 許可もあっさり下り、興奮は更に上昇する。普段は立ち入れない扉が、開かれたかのような気分だ。

「じゃあもう窓開けちゃおう! あと電気も消したらなんか楽しくない!?」
「まだ外の方が暑いと思うよ。いいの?」
「いいの!」

 そうと決まれば早く実行したくなる。アイスを美味しくフィニッシュし、窓を全開にした。
 重みのある空気に夏を見る。普段は不快な感覚も、今だけは楽しめた。柚は電気を消しに――行くかと思いきや、食べながら物置を漁りはじめた。

 ソファに戻らず、網戸の前に腰掛ける。流れ込むそよ風が、忘れかけていた風鈴を鳴らした。

 探し物は、探されることなく見つかったらしい。柚は、初夏に別れた扇風機を手にしていた。コードを突き刺し、私の右へと置いてくれる。それから、私の左側に腰を下ろした。
 体操座りで風を浴びながら、風鈴の音に耳を預ける。

「風鈴良い音だね。あんまり窓開けないからすっかり忘れてたね~」
「うん。夏っぽいね。扇風機どう?」
「良い感じだよ!」

 クーラーには劣るものの、扇風機の風も心地良かった。ただ、忙しい羽を見ると、衝動的に声をぶつけたくなる。
 強風モードに切り替え、宇宙人になりきった。声がぶつ切りにされる。背中から、柚の小さな笑声が聞こえた。

 大満足で、次は空を見上げてみる。月光だけで見る星々は、プラネタリウムよりも美しかった。この感動があれば、暑さなどちっぽけに思え――はしなかったが。だめだ。暑いものは暑い。

「…………やっぱ暑い……」
「熱帯夜だね。何年ぶりかなこういう夜」
「んんー! こうも暑くちゃ地球も泣くよ……ああ~涼しくなりたい!」
「じゃ海でも行く? 涼しいかは分かんないけど」

 柚の提案に、茹だりかけていた心が晴れる。まだ水に触れていないと言うのに、体まで楽になってきた。
 これは海だけのお陰じゃない。柚が"特別な日"に参加してくれているのが、何よりも嬉しかった。

「私、花火したい!」
「じゃあスーパー寄っていこう」

 歩いて五分圏内のスーパーで買い物をした。ほんのり暗い照明に、貸しきりの店内。それに帰宅を促すBGMーー店内は、既に閉店の空気が流れていた。
 しかし、その状況が逆に特別感を演出していた。それらを引っくるめ、一番嬉しかったのは冷房だが。

 しかし、否応なしに引き離され、私たちは次なる舞台へと向かった。
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