ご主人様の苦しみが、どうか安らぎますように。

有箱

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私が望むのは、ただ(最終話)

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 干しておいた果実を磨り潰します。一口舌に運ぶと甘さが広がりました。
 目標だった甘いお薬ですが、皮肉にも簡単に完成してしまいそうです。

 答えを見つけてから約一ヶ月、私は行動に移ることが出来ませんでした。
 やはり、人としての本能に邪魔されてしまうのです。胸を潰しながら日を跨ぐと、風日向の強さを見た気になりました。

「ご主人様、お薬の時間です。起きられますか?」

 眠りから覚めておられたのか、風日向さまは薄く瞳を開かれます。
 今にも息を止めそうなのに、一ヶ月近くも苦しませてしまいました。お薬は飲んだり飲まなかったりと、死と戦っておられるようでした。

 何もしなくても、風日向さまのお命は燃え尽きるでしょう。しかし、いつまで細く燃え続けるかも定かではないのです。
 だから私は、今日こそ決めたのです。

 これが今、私が出来ることです。風日向さまの為だけに、薬を学んだ私が。

 茶碗をそっと、風日向さまの鼻元へと寄せます。甘い香りが届いたならば、意図に気付かれることでしょう。

「…………いいの?」

 確認が、伝達の成功を教えてくれます。丁寧な口調で返事すると、風日向さまは懸命に腰を上げられました。お顔は、溶けそうな微笑みに包まれておりました。

「……恐らく、少しばかりお辛い時間があるかと思いますが……それでも宜しければ、どうぞこれを」

 半分ほど液体で満たされた茶碗が渡ります。

「ちゃんと全部、飲んで下さいね?」

 頷くと、ゆっくりと一口お口に含まれました。

「……とても甘い。篝は優しいね、私は君の仇みたいなものなのに」

 それから、思いきったように大きく茶碗を傾けられます。

「ご主人様が悪い人ならば、ご主人様を殺す私も悪い人になってしまいます。私は悪い人ですか?」

 液体が体内に消え、空っぽの茶碗が手から落ちました。
 風日向さまが蹲り、横向きに倒れ込まれます。両手で押さえられた胸は、激しく上下しておりました。
 そんな苦しさの中でも、首を横振りして下さいます。

「ならば、ご主人様も何も悪くないです」

 背中を擦りながら、私は微笑み続けました。
 
 お気付きになられていたかは分かりません。ですが、実はもう一杯お薬はあるのです。

 ご主人様――いいえ、風日向さま。私は貴方をお慕いしておりました。
 私の幸せは、貴方の傍にいることで御座います。
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