10 / 11
この痛みは思うが故に(2)
しおりを挟む
お世話係さんは、慣れた手つきでお部屋を整えます。気付けば、燃えきらない問いが勝手に零れていました。
「ご主人様のお仕事は何なのでしょうか」
人の命を葬り去るお仕事。それでいて、人々の暮らしを守るお仕事。二つの情報で、容易に仮説は立てられます。
しかし、風日向さまご本人に、直接訪ねることは出来ませんでした。あまりに強く、罪悪感を感じておられたからです。
嵩を増す罪悪感と生きるのは、どれだけ苦しかったことでしょう。
私は欠片さえ、気配を感じ取れていませんでした。苦しみを共有できなかった後悔を、今さらしてしまいます。
「役人さんに頼まれて、処刑を代行する仕事よ。表では裁けない人たちを裁くのね。代々受け継がれている仕事みたい」
そっか、知らなかったのね。困り笑いを浮かべながら、お世話係さんは続けました。
「まあ、篝ちゃんのこと娘みたいに可愛がっておられたから、あまり知られたくなかったのかもしれないわね」
補足はきっと正解です。けれど、私から知ろうとしなかったことが今は悔やまれます。
こんなにも優しい人が、殺した相手を全員覚えているような人が、一人で抱えていた。
それでもう、十分な罰だと言えるのではないでしょうか。いいえ、十分すぎます。
そもそも、こんなにも優しい人が、罰を受ける必要なんてきっとないのです――いいえ、私が嫌なのです。
ご主人様を、楽にして差し上げたい。
私の心に、一つの答えが現れました。すんなり染みこんだ答えは、いつかに見た未来を見せるのでした。
「ご主人様のお仕事は何なのでしょうか」
人の命を葬り去るお仕事。それでいて、人々の暮らしを守るお仕事。二つの情報で、容易に仮説は立てられます。
しかし、風日向さまご本人に、直接訪ねることは出来ませんでした。あまりに強く、罪悪感を感じておられたからです。
嵩を増す罪悪感と生きるのは、どれだけ苦しかったことでしょう。
私は欠片さえ、気配を感じ取れていませんでした。苦しみを共有できなかった後悔を、今さらしてしまいます。
「役人さんに頼まれて、処刑を代行する仕事よ。表では裁けない人たちを裁くのね。代々受け継がれている仕事みたい」
そっか、知らなかったのね。困り笑いを浮かべながら、お世話係さんは続けました。
「まあ、篝ちゃんのこと娘みたいに可愛がっておられたから、あまり知られたくなかったのかもしれないわね」
補足はきっと正解です。けれど、私から知ろうとしなかったことが今は悔やまれます。
こんなにも優しい人が、殺した相手を全員覚えているような人が、一人で抱えていた。
それでもう、十分な罰だと言えるのではないでしょうか。いいえ、十分すぎます。
そもそも、こんなにも優しい人が、罰を受ける必要なんてきっとないのです――いいえ、私が嫌なのです。
ご主人様を、楽にして差し上げたい。
私の心に、一つの答えが現れました。すんなり染みこんだ答えは、いつかに見た未来を見せるのでした。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
少女Aの憂鬱
有箱
現代文学
第一志望校として受験した、難関の高校に見事合格したアイロ。たくさんの祝福を受けて笑顔を見せるが、心から喜ぶことは出来なかった。 なぜなら、アイロの本当に行きたい高校は別にあったからだ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

2/2の音色
有箱
現代文学
ピアニストだった喜一は、病で倒れたことを機に生き甲斐だったピアノが弾けなくなってしまう。 元マネージャーに、再び復帰することを願われながらも、心の中では再起不能であると自覚し、期待や現実に打ちのめされていた。 そんな時、どこからかピアノの旋律が聴こえてくる。それを弾いていたのは、喜一とよく似た経験を持つ少女、うめだった。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?


人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる