ご主人様の苦しみが、どうか安らぎますように。

有箱

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この痛みは思うが故に(1)

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 風日向さまのお部屋にて、木の実を静かに潰します。固い部分が音を立てたところで、淡い声が聞こえました。

「……もう薬の時間?」
「いいえ、まだで御座います」

 問いかけに対しての答えだけ返します。なぜ、薬の時間ではないのに部屋にいるのかは、今日も口にしませんでした。

 あの日から私は、風日向さまのお部屋で長い時間を過ごすようになりました。
 理由は一つ、風日向さまが心配だからです。

 お世話係さんは、用事がある時しかいらっしゃる頃が出来ません。一人の時間が訪れた際、再び命を絶とうとされないか、恐ろしくて堪らないのです。

「……そう」

 一度は合った目が、自然と反らされました。恐らく、風日向さまは訳を悟っておいでなのでしょう。

「篝、怒っていないの?」
「……悲しくはありますが、怒ってはおりません」
「復讐したっていいんだよ? 僕は悪人なのだから殺しても誰も咎めない」

 直接的な単語に刺激され、瞳が急激に熱を帯びます。潤みを抑えるべく、ぎゅっと目蓋で蓋をしました。
 真実を知ったときでさえ、現れなかった怒りが急上昇します。

「ご主人様は死にたいのですか!?」

 これから何十年も隣にいたい――願いはそれだけなのに。風日向さまは私の前から消えたがる。これほどの苦しみがあるでしょうか。

 風日向さまの瞳が、衝撃を小さく体現されています。丸くなった目は、一瞬にして悲しく陰りました。

「……そっか、そうだよね。殺してもらおうなんて都合がよすぎた。たくさん罪を犯したんだ、苦しんで死ななきゃ顔向け出来ないな」
「そう言うことではございません……!」

 悪夢と部屋の行き来ばかりで、気が変になってしまったのでしょう。
 私の知らない風日向さまは、見れば見るほど私の胸を引っ掻きました。目で見えたのなら、血だらけになっていることでしょう。

 少しして、お世話係さんがいらっしゃいました。風日向さまは、お薬を飲まずに眠ってしまわれました。
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