ご主人様の苦しみが、どうか安らぎますように。

有箱

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優しく儚いご主人様(3)

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 私の知識は、ほとんど本によって成り立っています。屋敷には元々多くの本が貯蔵されており、私には退屈がありませんでした。いえ、退屈などしてはいられません。

「篝、いる?」

 不意に外から聞こえた声に、意識が吸い込まれます。集中はあっさり途切れ、気づけば庭へと飛び出していました。

「ご主人様、お体は宜しいのですか!?」

 無意識の問いかけに、苦い微笑みが溢されます。反対に私は、喜びの笑みを拵えてしまいました。久々に見る、元気なお姿にはしゃぎたくなります。

「また庭の色が変わったね。この木は何て言うの? いい香りがするけど」

 好みの香りだったのか、風日向さまの瞳が微睡みました。小花に向けられる優しさは、やっぱり羨んでしまうほど素敵です。

「――という名の植物でして、とても美味しそうな実をつけるのです。ただ、少量であれば薬になりますが、間違うと毒にもなってしまう恐ろしい植物でもございます」
「そっか、そういうものも扱えるなんて篝は凄……」

 突如として、風日向さまの背中が曲がります。同時に出始めた咳は、止まる様子を見せませんでした。
 発作に動揺しながらも、素早く部屋へと招きます。私ができることなんて、薬の調合くらいしかないのです。

 お布団で横になって頂いたものの、お待たせする時間はとても長く感じました。それどころか、無力さは膨らむばかりです。

 風日向さまは腰をあげて下さったものの、薬を中々飲み込めないようでした。少しずつ懸命にお飲みになられますが、中身は減っていきません。

 そんなお姿を前に、知識が欲しいと切に思いました。しかし、家をあけることは風日向さまを見放すのと同じです。
 先生がいらっしゃれば知識を乞えたのに――なんて現実逃避だけが、私の苦痛を和らげるのでした。
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