ご主人様の苦しみが、どうか安らぎますように。

有箱

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優しく儚いご主人様(2)

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 時々、私も悪い夢を見ます。幼き日の夢です。
 それは必ず、別室で眠る私の耳に、物音が聞こえるところから始まりました。

 覚えのない大きな音に誘われ、私は居間に向かいます。そこで私は、両親の亡骸を見るのです。血を流して重なる姿は、私の脳に焼き付きました。

 私は両親が大好きでした。ですので、失った悲しみや絶望は、今でさえ私の心の臓を揺さぶります。
 共にいたら、私も殺されていたのかもしれない。そんな恐怖も一緒に襲ってきました。

 二つの感情に覆い被られれば、目覚める頃には夏日のようです。髪も衣服も肌に張り付き、増した重力で数分動けなくなりました。

 風日向さまが拾って下さらなければ、きっと私は復讐心に焼かれていたでしょう。

 もう怒っていないと言えば嘘になります。しかし今は復讐心でなく、熱に苦しむ風日向さまへの同情が生まれるのです。

「今日も良いお薬作ろう……」



「篝ちゃん、風日向さま先程眠られたから、お薬後で持っていってくれる?」

 世話係さんに引き留められた時は、一瞬喉が絞まりました。それほど悲しげな顔をしていらっしゃったのです。
 最近よく見るお顔ではあるのですが、慣れられそうにはありません。

 風日向さまが、お亡くなりになる時が来る――考えたくないのに、勝手に頭に浮かんできます。
 そして、まだ訪れていないにも関わらず、孤独に涙ぐみそうになるのです。

 お屋敷の方々は皆お優しいですが、私の居場所は風日向さまの側にしかないのです。
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