犬くんの話

有箱

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危ない仕事【1】

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 実行日がやって来た。周囲に悟られぬよう、感情を消して業務に打ち込む。
 画面に釘付けな振りをしながらも、犬飼さんの動作を窺った。スタートまでの数時間は、疲れきるほどに長かった。

 犬飼さんが課長室に入っていく。凛とした背中は、戦闘に慣れてしまった戦士を思わせた。

 数分が経過する。しかし、犬飼くんは出てこない。更に経過する。やっぱり出てこない。一時間を越えても、彼は出てこなかった。

 意味もなくマウスを操ってしまう。ページの変わらない書類を見ていると、突然部屋から物音が聞こえた。壁に何かがぶつかる音だ。
 思わず起立しそうになったが、こらえた。周囲の人間も、一瞬気を取られては持ち直していた。

 その内、音が繰り返されるようになり、怒鳴り声も届きはじめた。明らかな攻撃が、見えない部屋の中にはあった。
 なのに、誰一人立ち上がらない。きっと事後も、見なかったことにするのだろう。もしかしたら、こうして抹消された抵抗もあったのかもしれない。

 相変わらず、音は止まない。うちの社長も、危険は把握していたはずだ。間違えば死ぬかもしれない危険を。ああ、まさに『犬』扱い――。

 確信を指先に乗せ、膝元で密かにスマートフォンを開く。上司の目を上手く掻い潜り、予め練っておいたメッセージを送信した。宛先は警察署だ。手はず道理である。

 与えられた役目は終わってしまった。後は平然と彼が現れるのを待つしかない。けれど裏腹に騒ぎは止まらない。
 落ち着きなくパソコンを見ていると、耳を突く雑音と共に声が静まった。

 思わず立ち上がる。隣の人間に手を捕まれたが振りきった。恐ろしいのか、それ以上引き留めてこなかった。
 部屋に飛び込む。目を刺激したのは、テレビドラマを疑う光景だった。
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