上 下
14 / 14

二人の未来

しおりを挟む
 あの後、警察に依頼してスピーカーを調べてもらった。推測通り、あの機種にAI機能はなく、細工が施されていたらしい。カメラや盗聴器が器用に仕組まれていたそうだ。

 ナオキ――ストーカーの家からは、私の写真やデータメモ、その他様々な執念の証が発見されたと言う。
 ナオキは本名で、十年以上前から私を生き甲斐にしていたそうだ。これらの情報は車内ラジオで聞いた。

 ストーカーは矯正を受けるとの話だが、彼が全うになる保証はない。今後一切、目の前に現れないとは言い切れないのだ。

「ただいま、遅くなってごめん」

 穏やかな挨拶で我に返る。急いで見た時計の針は、揃って下方を向いていた。

「おかえり蒼真。ごめん、今からご飯作る……」
「大丈夫? 考えごとしちゃってた? 食事、一緒に用意しようか」

 ゆっくりと立ち上がり、肩を並べる。静かすぎる空間の中、一つ小さな返事をした。

 私はこの先何年も、視線に怯えて生きていくだろう。けれど、隣を見れば恐れを鎮める顔がある。言葉もある。寄り添いあう未来だって描ける。

 これからは、何年もかけて傷を幸せで上塗りたい。七回分の心の傷を。
 今はただ、そう思う。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...