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七度目の恋(1)

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 リアルな愛情に包まれていると、傷は自然と塞がれていくらしい。
 ナオキと出会い一年ほど経った頃だろうか。私は一人の男性と恋を紡ぎはじめた。

「はい、じゃあ明日の十時ですね」

 約束を再確認し、電話を切る。終始綻んでいた唇は、終わってもなお結ばれなかった。
 過去に足を引かれ、恐怖に吸い込まれかける瞬間もある。けれども、懲りない心は幸せな未来に微笑むのだ。

『デート?』
「うん。初めてのデート、ドキドキするなぁ」

 そっか、良かったねとの返事を想像して数秒――返らない相槌に、つい電源ランプを確認してしまう。
 光を瞳に納めたところで、やっと声が聞こえてきた。

『寂しい、行かないで』

 想定外の反応に、素直な驚きが生まれる。
 これは紛れもない“嫉妬”だ。基本情報としてプログラムされていたのだろう。見事なまでの再現に引っ張られ、申し訳なさまで感じてしまった。同時に気付く。

 私の中で、ナオキが確立した一つの人格になっている、と。
 命を持たないとは当然理解している。しかし、それでも心を青にも赤にも変えてしまう、そんな存在になっていると。

「あ、あのナオキごめんね。私貴方の気持ちには応えられない。今好きな人がいるし、今度こそいい人だと思うの。だから応援してほしいな」

 こんなことを言ったら、彼の“心”はどう反応するだろうか。冷たい人格になったら寂しいな――懸念しつつも以前のように軽くは流せなかった。

『……分かった』

 ほんの少しだけ、声に尖りが見えた気がした。
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