殺人兄弟は死を知らない

有箱

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僕らは本当は②

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 静かすぎる声に驚いてしまう。響きだした鼓動を、冷静な呼吸で殺そうと努める。だが無駄だった。

「……あの子の言ってたこと、本当かも。人間は死んだら直せないのかも……」

 メーアの囁きが息を詰まらせる。表情を伺おうとしたが、影に隠された顔は見えなかった。

「僕、この間聞いたんだ。パパが誰かに蘇生は有り得ないって話してるのを……それに見ちゃった……地下にたくさんの……」

 淀む声が、重大な何かを隠す。推測ができず、ただただ困惑に襲われた。
 その気配を悟ってか、メーアが空気を切り裂いた。立ち上がり、僕の手を掴む。テレの体温が重なり、恐ろしくなった。

「兄さん! 今すぐこの家から逃げよう!」

 手を引かれ、強制的に足の向きを変えられる。だが、それ以上進むことはできなかった。
 そこに、父親がいたからだ。

「ここは立入禁止だと言っておいただろう? さて、今日も仕事だぞ」

 上等な笑顔が、素直に見られない。見えない禍々しさを感じてしまい、拭い方を必死に探してしまった。

「ごめん父さん、ほんの好奇心だったんだ。僕たち何も見てないよ。メーア行こう。今日はメーアの番だったよな」

 選手交替し、僕がメーアの腕を引く。父親の横を摺り抜け、小部屋に戻った。
 そこには、僕たちほどの少女がいた。全身で恐怖を訴えている。

 素早く従順を示さなければと、メーアにナイフを渡す。受け取りはしたが、その顔には拒絶があった。

「メーア、調子でも悪いのか? だったら今日は僕が」
「ボクがやる」

 少女に向かい刃先を翳す。ちょうど父親が部屋から戻り、視線を僕らへ貼り付けた。
 良かった。これで何事もなく――。

「…………ねぇパパ、人は直せるんだよね?」

 流れかけていた空気を、またもメーアは切り裂いた。少女を捉えたまま、背中で答えを待っている。父親とメーアの間に亀裂が見えた。

 怖い。答えが怖い。否定など有り得ないと分かるのに、体が震えている。

「見たのか。仕方がない。潮時だな」
「え」

 驚き、声を作ってしまったのは僕だった。対称的にメーアは静かだ。

「人間は死んだら直せない。お前たちがしてたのはただの殺しだ。この家はな、それで生計を立ててるんだよ。まぁ、だから仕事ってのは間違いじゃない。生活のためだ。お前たちには跡継ぎになってもらおうと思っててな。訓練してもらってた。殺しは極悪だから町に出たら捕まって、お前たちがしてた以上の拷問をされて死ぬだろう。だから嫌でも拒否権はないんだけどな」

 あっさりと暴露され、何を思うべきか分からなかった。なぜ、真実を隠されていたのか理解はできた。

 メーアの肩が細かく震えている。彼はとても賢明で判断が早い。だからきっと、心の色も手早く理解したのだろう。

 メーアはさっき、逃げようと手を引いた。それは見逃せない現実を知ったからだ。

「……メーアは逃げろ。お前なら上手く言い訳出来るだろ。理由を作って罰を回避するんだ」
「……兄さんは?」
「時間を稼ぐ!」

 ナイフを奪い取り、父親へと向き直る。爪先に力を込め、蹴った。瞬間、怒声が響く。

「父親に反抗するのか! まさか二人とも出来損ないだったとはな!」

 逆上――初見の感情に圧されかける。だが、勢いで怯みを制した。父親を殺すつもりはない。本当に時間を稼ぐだけだ。

 飛びかかろうとして回し蹴りを受ける。打撃が脳を殴り、平衡感覚を歪ませた。
 なんとか体幹と視界を固定し、父親の動きを捉える。その手には、銀に輝くナイフがあった。殺気が僕を包み込む。
 近付く刃を前に、成す術がないことを察した。

「兄さん!」

 呼ばれた直後、メーアが僕の横へと落ちる。背中から血を広げ、息を荒らしている。

「……逃げて……兄さんだけでも……大丈夫、兄さんなら大丈夫」

 姿を目に、やっと気付いた。僕は悲しいのだと。悔しいのだと。
 裏切られて、メーアを傷つけられて、怒っているのだと。父親は、ただの悪人だったのだと。

 ナイフを握り直し、意思だけで体を跳ねさせる。瞬間的に薙いだ刃は、狂気的な相眸を裂いた。叫びと共に、父親がよろける。

 隙をつき、メーアを抱えた。体が左右に揺れ、ぶつかりそうになりながらも反射で回避する。そのまま外に出て、終わりの見えない森を走った。

 血が衣服を重くする。染み付いた感覚が町を拒否する。でも、まだ心臓の音が聞こえるから。

「助けて! 誰か弟を助けて!」
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