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その心は、何を繋ぐ
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三発の銃声が止む。一瞬、時が止まったかと思った。
「……アル……ルテ?」
なぜか今、僕の上にアルルテがいる。乗っかったまま、微動だにしない。
脳内に出来事がフラッシュバックした。
翻った瞬間、どうしてかアルルテがいて、僕に飛びかかって来たのだ。それと同じタイミングで銃声が鳴った。仲間が焦って逃げる姿を見ながら、二人で倒れ込んだ。そして今に至る。
――そうだ、アルルテは銃弾から僕を庇ったんだ。それも、仲間から放たれた銃弾から。
パニックになる。自らの油断が、アルルテを巻き込んだ。喉の奥から、叫びが込み上げてくる。
「しっ! 少し死んだ振りしてて」
だが、すんでのところで遮られた。どうやら、アルルテは無事だったようだ。
しかし、ここで気は抜けない。指示通り、声を殺し息を潜める。敵兵もいたらしく、先ほど逃げた仲間を追いかけていった。
銃撃の音が、激しく耳を劈いた。
*
「居なくなったみたいね、もう動いていいわ」
空ろになりかけていた頭が冴え出す。起き上がったアルルテに続こうとしたら、勢い良くぶつかってしまった。
「……痛い」
「ごめん。ところで、どうしてここに?」
頭を抱えていたアルルテは、上目で僕を見る。月光に照らされた彼女は、とても美しかった。
「後を付けてきたのよ。いつも一緒にいる私が嘘に気付かないと思う?」
「ごめん、思ってた……」
上手く誤魔化した積もりでいたが、お見通しだったらしい。アルルテを見くびっていたようだ。
「それで、何でこんな所に?」
問われ、本来の目的を思い出す――と同時に、花に気付いていないことも知った。
「……これを探しに」
摘《つま》んだままの花を差し出す。アルルテは一瞬固まってから、目を据え眺め出した。
「これって……花よね?」
「うん、そうだと思う。図鑑に乗ってた?」
じっと見つめる瞳は真剣だ。本を眺めている時と同じ目をしている。
だが、突然潤み出した。雫が一つ、また一つと落ちる。
「どうしたの?」
「……嬉し泣きよ」
それ以上、言葉は続かなかった。しかし、落ちる涙から感動は伝わってくる。
報われた、気がした。
*
「良かった。そうだ、この花の心は?」
微笑みかける。アルルテは瞼を拭い、改めて花を凝視した。
だが、すぐに頭を振る。
「分からない。本にはない花みたいで……」
再び溢れた涙に、悲しみの色が混ざった。アルルテは今、複雑な気持ちに揺れていることだろう。
「……ニイチ、今からどうしようもないことを言うわ」
「どれだけでも聞くよ」
感情の昂りが、嗚咽を作り出す。大体の内容を悟った上で、真剣に耳を傾けた。
小さく、途切れ途切れの声が聞こえた。
「私、やっぱり死にたくない……花のことも心のことも、もっと知りたい……」
やっぱり。
はっきりと言葉にされて、心が熱を持ち出す。
今までだって、毎日抱いてきた感情だろう。もちろん、僕も同じだ。
だが、僕らの間で、発言はタブーとされてきた。それを口にしてしまうほど、彼女は今、生きたいと願っている。
「……じゃあ、こうしよう」
ならば、選択は一つしかない。同じ末路に行き着くとしても、可能性がある方に掛けた方がきっといい。
空いている左手で、アルルテの手を握る。耳を研ぎ澄ませ、人の気配を探った。
木陰を飛び出す。行くなら、今しかない。
「ニイチ!?」
「僕の手、離さないでね!」
宵闇に紛れ、遠く、遠くへ逃げよう。アルルテの願いを叶えるため。命尽き果てるまで。
最後くらいは、生きる為に戦おう。
「……アル……ルテ?」
なぜか今、僕の上にアルルテがいる。乗っかったまま、微動だにしない。
脳内に出来事がフラッシュバックした。
翻った瞬間、どうしてかアルルテがいて、僕に飛びかかって来たのだ。それと同じタイミングで銃声が鳴った。仲間が焦って逃げる姿を見ながら、二人で倒れ込んだ。そして今に至る。
――そうだ、アルルテは銃弾から僕を庇ったんだ。それも、仲間から放たれた銃弾から。
パニックになる。自らの油断が、アルルテを巻き込んだ。喉の奥から、叫びが込み上げてくる。
「しっ! 少し死んだ振りしてて」
だが、すんでのところで遮られた。どうやら、アルルテは無事だったようだ。
しかし、ここで気は抜けない。指示通り、声を殺し息を潜める。敵兵もいたらしく、先ほど逃げた仲間を追いかけていった。
銃撃の音が、激しく耳を劈いた。
*
「居なくなったみたいね、もう動いていいわ」
空ろになりかけていた頭が冴え出す。起き上がったアルルテに続こうとしたら、勢い良くぶつかってしまった。
「……痛い」
「ごめん。ところで、どうしてここに?」
頭を抱えていたアルルテは、上目で僕を見る。月光に照らされた彼女は、とても美しかった。
「後を付けてきたのよ。いつも一緒にいる私が嘘に気付かないと思う?」
「ごめん、思ってた……」
上手く誤魔化した積もりでいたが、お見通しだったらしい。アルルテを見くびっていたようだ。
「それで、何でこんな所に?」
問われ、本来の目的を思い出す――と同時に、花に気付いていないことも知った。
「……これを探しに」
摘《つま》んだままの花を差し出す。アルルテは一瞬固まってから、目を据え眺め出した。
「これって……花よね?」
「うん、そうだと思う。図鑑に乗ってた?」
じっと見つめる瞳は真剣だ。本を眺めている時と同じ目をしている。
だが、突然潤み出した。雫が一つ、また一つと落ちる。
「どうしたの?」
「……嬉し泣きよ」
それ以上、言葉は続かなかった。しかし、落ちる涙から感動は伝わってくる。
報われた、気がした。
*
「良かった。そうだ、この花の心は?」
微笑みかける。アルルテは瞼を拭い、改めて花を凝視した。
だが、すぐに頭を振る。
「分からない。本にはない花みたいで……」
再び溢れた涙に、悲しみの色が混ざった。アルルテは今、複雑な気持ちに揺れていることだろう。
「……ニイチ、今からどうしようもないことを言うわ」
「どれだけでも聞くよ」
感情の昂りが、嗚咽を作り出す。大体の内容を悟った上で、真剣に耳を傾けた。
小さく、途切れ途切れの声が聞こえた。
「私、やっぱり死にたくない……花のことも心のことも、もっと知りたい……」
やっぱり。
はっきりと言葉にされて、心が熱を持ち出す。
今までだって、毎日抱いてきた感情だろう。もちろん、僕も同じだ。
だが、僕らの間で、発言はタブーとされてきた。それを口にしてしまうほど、彼女は今、生きたいと願っている。
「……じゃあ、こうしよう」
ならば、選択は一つしかない。同じ末路に行き着くとしても、可能性がある方に掛けた方がきっといい。
空いている左手で、アルルテの手を握る。耳を研ぎ澄ませ、人の気配を探った。
木陰を飛び出す。行くなら、今しかない。
「ニイチ!?」
「僕の手、離さないでね!」
宵闇に紛れ、遠く、遠くへ逃げよう。アルルテの願いを叶えるため。命尽き果てるまで。
最後くらいは、生きる為に戦おう。
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