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ママ大好きだよ
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――だが、その手に力が篭ることは無かった。怯えた瞳で私を見るマコの横、黄色い何かが散らばったからだ。
全て、幼稚園鞄から出ていた。
「……これって」
不器用にカットされた、小さな丸型の厚紙。それは黄や茶で着色されており、中心には数字が記入されていた。
本物とは似ても似つかないが、何を表したかは一目瞭然だ。そして、それらの物体に紛れるように、一際大きな丸もあった。黄色の丸だ。
それだけに長い紐の輪がついており、メッセージまで書かれていた。難解な文字の羅列を、食い入るように視線でなぞる。
全て読み終えた時、体が勝手に後ずさった。
「……ママ?」
「ごめんね! マコちゃんごめんね……!」
涙が溢れ出す。罪悪感や、自らの行動への恐怖が湧きあがる。マコの顔を直視できず、両手で顔を覆った。
私は、なんて事をしようとしたんだ。
マコを――こんなにも愛しい娘を殺そうとしたなんて。
「ママ、良いよ。マコ怒ってないよ」
優しい声が聞こえた。震える肩に触れられ、導かれるよう顔を上げる。
目の前には、先程の紙を持ったマコが立っていた。私が泣いているからか、マコも泣きそうな顔をしている。
だが、恐怖と言うよりは、悲しそうな友達を慰めようとしているかのようだった。
まるで、天使の絵本のように。
「ママ、手出して」
言われるがまま、両手を出す。濡れているのが気になったのか、袖で軽く拭われた。その上に小さな方の紙を――お金を模した紙を落とした。
「プレゼント。いっぱいあればママが元気になると思って。あとはね……」
マコは、持っていた紐の輪を広げ、私の首へと掛ける。黄色でしっかりと塗られた丸は、丁度胸の辺りに下がった。
やっぱりこれは――。
「これね、金メダルって言うの。凄い人にあげるやつなんだって。本当は金色が良かったんだけど、黄メダルで我慢してね」
停止していた涙が、再び溢れ出す。発声できず、首肯だけを示した。
金色のクレヨンは、この為の物だったんだ。私の為に、欲しがってくれていたんだ。
マコが、メダル部分を持った。自分の方へ寄せ、メッセージを読み上げはじめる。必然的に、私も引き寄せられた。
「ママ、いつも頑張りました。ママは凄いです。ママ大好きだよ。ずっとマコのママでいてね」
読み終えたマコは、にっこりと笑う。ママも笑ってと言われた気がした。
ああ、私はちゃんと認められていた。頑張ってるねって、一番大好きなこの子が分かってくれていた。
それだけで、もう十分だ。
「……ママもマコちゃんのこと大好きだよ!」
思いっきりマコを抱きしめた。背中や頭を撫で、心の中までマコでいっぱいにした。
マコも、私のことを抱きしめてくれた。
*
「行ってきまーす! ママお仕事頑張ってね!」
「はーい、マコは勉強頑張ってね!」
あれから月日が経ち、マコは一年生になった。お弁当もお迎えも、もう要らなくなった。
だが、今は昨年より仕事をしていない。他者にアドバイスを聞いたり、役場に駆け込んだりして解決策を求めた結果だ。
そのお陰で、やっとまともに家事が出来るようになった。マコとの時間も増え、本の習慣も復活した。
今は、二人での生活が楽しい。
あの日の罪悪感は、未だに時々蘇る。だが、思い出す度に頑張ろうとも思えるのだ。二人で生きて行く為に頑張ろうと。
後日談だが、金色のクレヨンを渡した所、翌日には新たなメダルを進呈された。その際、前分の返還を求められたが、持っていたいからと話し承諾してもらった。
今はリビングのよく見える場所に、手作りお金と共に飾ってある。
二つのメダルは、何度も私を励ましてくれた。それは、恐らくこれからも。
「さ、今日も頑張るかー!」
今日は金曜で、明日は休みだ。一日頑張れば、明日はマコと共に過ごせる。
さて、一緒に何をしようかな。
考えながら、玄関の扉を大きく開け放った。
全て、幼稚園鞄から出ていた。
「……これって」
不器用にカットされた、小さな丸型の厚紙。それは黄や茶で着色されており、中心には数字が記入されていた。
本物とは似ても似つかないが、何を表したかは一目瞭然だ。そして、それらの物体に紛れるように、一際大きな丸もあった。黄色の丸だ。
それだけに長い紐の輪がついており、メッセージまで書かれていた。難解な文字の羅列を、食い入るように視線でなぞる。
全て読み終えた時、体が勝手に後ずさった。
「……ママ?」
「ごめんね! マコちゃんごめんね……!」
涙が溢れ出す。罪悪感や、自らの行動への恐怖が湧きあがる。マコの顔を直視できず、両手で顔を覆った。
私は、なんて事をしようとしたんだ。
マコを――こんなにも愛しい娘を殺そうとしたなんて。
「ママ、良いよ。マコ怒ってないよ」
優しい声が聞こえた。震える肩に触れられ、導かれるよう顔を上げる。
目の前には、先程の紙を持ったマコが立っていた。私が泣いているからか、マコも泣きそうな顔をしている。
だが、恐怖と言うよりは、悲しそうな友達を慰めようとしているかのようだった。
まるで、天使の絵本のように。
「ママ、手出して」
言われるがまま、両手を出す。濡れているのが気になったのか、袖で軽く拭われた。その上に小さな方の紙を――お金を模した紙を落とした。
「プレゼント。いっぱいあればママが元気になると思って。あとはね……」
マコは、持っていた紐の輪を広げ、私の首へと掛ける。黄色でしっかりと塗られた丸は、丁度胸の辺りに下がった。
やっぱりこれは――。
「これね、金メダルって言うの。凄い人にあげるやつなんだって。本当は金色が良かったんだけど、黄メダルで我慢してね」
停止していた涙が、再び溢れ出す。発声できず、首肯だけを示した。
金色のクレヨンは、この為の物だったんだ。私の為に、欲しがってくれていたんだ。
マコが、メダル部分を持った。自分の方へ寄せ、メッセージを読み上げはじめる。必然的に、私も引き寄せられた。
「ママ、いつも頑張りました。ママは凄いです。ママ大好きだよ。ずっとマコのママでいてね」
読み終えたマコは、にっこりと笑う。ママも笑ってと言われた気がした。
ああ、私はちゃんと認められていた。頑張ってるねって、一番大好きなこの子が分かってくれていた。
それだけで、もう十分だ。
「……ママもマコちゃんのこと大好きだよ!」
思いっきりマコを抱きしめた。背中や頭を撫で、心の中までマコでいっぱいにした。
マコも、私のことを抱きしめてくれた。
*
「行ってきまーす! ママお仕事頑張ってね!」
「はーい、マコは勉強頑張ってね!」
あれから月日が経ち、マコは一年生になった。お弁当もお迎えも、もう要らなくなった。
だが、今は昨年より仕事をしていない。他者にアドバイスを聞いたり、役場に駆け込んだりして解決策を求めた結果だ。
そのお陰で、やっとまともに家事が出来るようになった。マコとの時間も増え、本の習慣も復活した。
今は、二人での生活が楽しい。
あの日の罪悪感は、未だに時々蘇る。だが、思い出す度に頑張ろうとも思えるのだ。二人で生きて行く為に頑張ろうと。
後日談だが、金色のクレヨンを渡した所、翌日には新たなメダルを進呈された。その際、前分の返還を求められたが、持っていたいからと話し承諾してもらった。
今はリビングのよく見える場所に、手作りお金と共に飾ってある。
二つのメダルは、何度も私を励ましてくれた。それは、恐らくこれからも。
「さ、今日も頑張るかー!」
今日は金曜で、明日は休みだ。一日頑張れば、明日はマコと共に過ごせる。
さて、一緒に何をしようかな。
考えながら、玄関の扉を大きく開け放った。
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