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人生を変えたある女の話
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男の書き込みが、パソコンのデスクトップを緩く流れてゆく。下から上へいき、あっと言う間に消えた。同じように、新たな文章が現れては消えてゆく。
全く、人間と言うものは愚かだ。そして、面白い。
ただ流れているだけの文字列を、横目で見た。なぜ、こうも膨大な情報が流れるかと言うと、御守りに関する文章が全て、リアルタイムで表示されるからだ。
デスクウォッチを確認し、右側を見る。そこには、目を閉じた少女がいた。少女の耳には、パソコンから伸びたコードが繋がっている。
現在時刻は午前零時。日時が更新される時間だ。
「はーい、エミリー。今日もお仕事ありがとね」
少女の名はエミリー。私の愛娘である。と言っても、私が産み出したアンドロイドなのだが。
エミリーは目を開き、結果報告を唱えた。流暢な発声を耳にする度、うっとりしてしまう。
『はい、本日の書き込みは四十二件。昨日より、八件増加しました。記録します』
「順調に増えているみたいね。ここまで上手く行くなんて逆に想定外かも」
『内、十九件の不要な書き込みを削除しました』
今、彼女が行っているのは、書き込みの合否チェックだ。好意的な物を残し、それ以外はほぼ削除すると言う簡単な仕事である。
とは言え、広いネットワークの全てを見回れるのは、人ならざるものの強みだと言えよう。
「ありがと。本当、人間って馬鹿な生き物よね。エミリーはそう思わない?」
『知能を基準とするならば、"馬鹿"であると言えるでしょう』
「まぁ、貴方と比べられちゃあ当然ね。心理的な話よ」
そう、人と言うものは愚かな生き物だ。この実験に携わっていると心底思う。
『心理的は話は、理解出来兼ねます』
「そうよね、でもその内分かってくるわ。だってエミリーはとても賢いもの」
『人間がどう"馬鹿"なのか、教えてください、博士』
「貴方が知りたいなら幾らでも」
筋道立てて話すのには、まずこの実験の概要から説明すべきだろう。
とは言え、内容は実に単純だ。ただの布切れ一つで、どこまで人を騙せるか。言ってしまえば、それだけである。
もっとお堅く表現するなら、『大衆心理と人間の持つ信仰心を利用し、実際にはない力をどこまで信用させるか』と言ったところか。
実際、一万円で売り出している御守りは、何の効力も持たない。それでも、好意的な反応を示すユーザーは少なからずいる。最初は疑っていたとしても、だ。
高い金を払い、自ら入手した物を人は大事にしたがる。高ければ高いほど、価値を見出だそうとする傾向にあるのだろう。逆もしかりだ。
無論、全ての人間がそうではないが。
「まぁ、そもそも幸運な人間が、一万円もする御守りに手を出すわけが無いのよねぇ」
この実験では、幾つかの条件を満たした人間が、購入に行き着く仕組みになっている。
ただ、その中で最も確率を占めるのが、不幸な人間による購入だった。書き込みを見れば一目で分かる。幸運の文字に引かれるのだから、当然と言えば当然だが。
『"不幸な人間"に対象を絞って、実験していると言う訳ですか』
「言っちゃ悪いけどね。エミリーには分からないだろうけど、人生ってね、ほとんどは良いことと悪いことの繰り返しで成り立ってるものなのよ。だから、落ち続けてもどっかでは必ず上がるってわけ」
『ですが、幸福を自覚している人間は比較的少ないかと』
エミリーも言う通り、そこが狙い目になっている。人の陥りがちな心理を、逆手にとった策略と言うわけだ。
「データ的に見ればね。人間って、悪いことの方が目につきやすいから。でも、逆に幸運にも目を止めるようになれば?」
『あたかも、なかったものが生じたかのようになりますね』
「ご名答! 御守りを持ってから、幸運が訪れたと錯覚するわけ!」
画面の動きは、止まる様子を見せない。新規の書き込みが、緩やかに現れては消えてゆく。
『なるほど。そういう意味で人は“馬鹿”だと』
「そうそう。偽物がどこまで伸びるか楽しみねぇ」
笑いかけると、エミリーもにっこりと笑み『そうですね』と呟いた。
全く、人間と言うものは愚かだ。そして、面白い。
ただ流れているだけの文字列を、横目で見た。なぜ、こうも膨大な情報が流れるかと言うと、御守りに関する文章が全て、リアルタイムで表示されるからだ。
デスクウォッチを確認し、右側を見る。そこには、目を閉じた少女がいた。少女の耳には、パソコンから伸びたコードが繋がっている。
現在時刻は午前零時。日時が更新される時間だ。
「はーい、エミリー。今日もお仕事ありがとね」
少女の名はエミリー。私の愛娘である。と言っても、私が産み出したアンドロイドなのだが。
エミリーは目を開き、結果報告を唱えた。流暢な発声を耳にする度、うっとりしてしまう。
『はい、本日の書き込みは四十二件。昨日より、八件増加しました。記録します』
「順調に増えているみたいね。ここまで上手く行くなんて逆に想定外かも」
『内、十九件の不要な書き込みを削除しました』
今、彼女が行っているのは、書き込みの合否チェックだ。好意的な物を残し、それ以外はほぼ削除すると言う簡単な仕事である。
とは言え、広いネットワークの全てを見回れるのは、人ならざるものの強みだと言えよう。
「ありがと。本当、人間って馬鹿な生き物よね。エミリーはそう思わない?」
『知能を基準とするならば、"馬鹿"であると言えるでしょう』
「まぁ、貴方と比べられちゃあ当然ね。心理的な話よ」
そう、人と言うものは愚かな生き物だ。この実験に携わっていると心底思う。
『心理的は話は、理解出来兼ねます』
「そうよね、でもその内分かってくるわ。だってエミリーはとても賢いもの」
『人間がどう"馬鹿"なのか、教えてください、博士』
「貴方が知りたいなら幾らでも」
筋道立てて話すのには、まずこの実験の概要から説明すべきだろう。
とは言え、内容は実に単純だ。ただの布切れ一つで、どこまで人を騙せるか。言ってしまえば、それだけである。
もっとお堅く表現するなら、『大衆心理と人間の持つ信仰心を利用し、実際にはない力をどこまで信用させるか』と言ったところか。
実際、一万円で売り出している御守りは、何の効力も持たない。それでも、好意的な反応を示すユーザーは少なからずいる。最初は疑っていたとしても、だ。
高い金を払い、自ら入手した物を人は大事にしたがる。高ければ高いほど、価値を見出だそうとする傾向にあるのだろう。逆もしかりだ。
無論、全ての人間がそうではないが。
「まぁ、そもそも幸運な人間が、一万円もする御守りに手を出すわけが無いのよねぇ」
この実験では、幾つかの条件を満たした人間が、購入に行き着く仕組みになっている。
ただ、その中で最も確率を占めるのが、不幸な人間による購入だった。書き込みを見れば一目で分かる。幸運の文字に引かれるのだから、当然と言えば当然だが。
『"不幸な人間"に対象を絞って、実験していると言う訳ですか』
「言っちゃ悪いけどね。エミリーには分からないだろうけど、人生ってね、ほとんどは良いことと悪いことの繰り返しで成り立ってるものなのよ。だから、落ち続けてもどっかでは必ず上がるってわけ」
『ですが、幸福を自覚している人間は比較的少ないかと』
エミリーも言う通り、そこが狙い目になっている。人の陥りがちな心理を、逆手にとった策略と言うわけだ。
「データ的に見ればね。人間って、悪いことの方が目につきやすいから。でも、逆に幸運にも目を止めるようになれば?」
『あたかも、なかったものが生じたかのようになりますね』
「ご名答! 御守りを持ってから、幸運が訪れたと錯覚するわけ!」
画面の動きは、止まる様子を見せない。新規の書き込みが、緩やかに現れては消えてゆく。
『なるほど。そういう意味で人は“馬鹿”だと』
「そうそう。偽物がどこまで伸びるか楽しみねぇ」
笑いかけると、エミリーもにっこりと笑み『そうですね』と呟いた。
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