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第十七話
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書く事は、命よりも大事だった。今更実感した。今までも好きである自覚はしていたが、否定されてこのような思考回路に陥るとは自分でも想定外だった。
¨いつか伝われば¨そう願っていられたから今まで頑張って来られた。それなのに――――。
「司佐くん、ボタン見に行くのいつだっけ?」
現実に引き戻され、顔を上げるとカメラを構えた葉月が居た。
どうやら貸した事を切欠に、カメラで遊ぶのが楽しくなってしまったようだ。遊ぶと言ってもシャッターは切らず、被写体にピントを合わせて覗いているだけだが。
「あー……えっと、明後日だな」
「明後日かー! 見学なら私も行ってみたいな!」
カメラが機械音を立てる。真ん中の丸いレンズから覗かれていると思うと、妙に落ち着かず目を逸らした。
「…………¨ご本人様以外はご遠慮下さい¨って注意書きにもあったから、残念だけど待機な」
「うん、分かってるー」
もし存在抹消ボタンを押したら。そうしたら彼女は、その目で誰を見詰めるようになるのだろう。摩り替わった世界はどんな色をしているのだろう。僕の居た場所には、誰が居るのだろう。
¨私は、司佐くんの本に救われたんだよ¨
不意に、耳慣れた言葉の羅列が浮かんできた。出会ってから、葉月が何度も口にした感謝だ。
失敗の多い字書き人生の中で、唯一作品を認めてくれた葉月。有名になれると信じてくれた葉月。
「なぁ、葉月」
「何?」
葉月の持つアイテムが、何時の間にか本に変化していた。カメラは丁寧に机の上へと置かれている。本の著者部分を見ると、顔も知らない人間の名が載っていた。
「…………えーあー、なんて言おうと思ったか忘れた」
「えっ!? 早っ!?」
「思い出したら言うわー」
「えー、何かそういうのモヤモヤする……!」
不満を口にしながらも宿されていた笑みは、痛みの伴う、灰色の闇を作り出した。
きっと、消えても彼女は大丈夫。別の誰かの本を手にして、そうして彼女は救われる。僕を知らない彼女と誰かが、こうして二人で生きてゆく。
消えた世界での補完はそれで終わりだ。それ以外は、元々居なくたって何の支障も無かった世界なのだから。
だから、少し申し訳ないけれど、君には黙って消えてしまおう。
――――そうして何も悟らせないまま、二日の時が経過した。
¨いつか伝われば¨そう願っていられたから今まで頑張って来られた。それなのに――――。
「司佐くん、ボタン見に行くのいつだっけ?」
現実に引き戻され、顔を上げるとカメラを構えた葉月が居た。
どうやら貸した事を切欠に、カメラで遊ぶのが楽しくなってしまったようだ。遊ぶと言ってもシャッターは切らず、被写体にピントを合わせて覗いているだけだが。
「あー……えっと、明後日だな」
「明後日かー! 見学なら私も行ってみたいな!」
カメラが機械音を立てる。真ん中の丸いレンズから覗かれていると思うと、妙に落ち着かず目を逸らした。
「…………¨ご本人様以外はご遠慮下さい¨って注意書きにもあったから、残念だけど待機な」
「うん、分かってるー」
もし存在抹消ボタンを押したら。そうしたら彼女は、その目で誰を見詰めるようになるのだろう。摩り替わった世界はどんな色をしているのだろう。僕の居た場所には、誰が居るのだろう。
¨私は、司佐くんの本に救われたんだよ¨
不意に、耳慣れた言葉の羅列が浮かんできた。出会ってから、葉月が何度も口にした感謝だ。
失敗の多い字書き人生の中で、唯一作品を認めてくれた葉月。有名になれると信じてくれた葉月。
「なぁ、葉月」
「何?」
葉月の持つアイテムが、何時の間にか本に変化していた。カメラは丁寧に机の上へと置かれている。本の著者部分を見ると、顔も知らない人間の名が載っていた。
「…………えーあー、なんて言おうと思ったか忘れた」
「えっ!? 早っ!?」
「思い出したら言うわー」
「えー、何かそういうのモヤモヤする……!」
不満を口にしながらも宿されていた笑みは、痛みの伴う、灰色の闇を作り出した。
きっと、消えても彼女は大丈夫。別の誰かの本を手にして、そうして彼女は救われる。僕を知らない彼女と誰かが、こうして二人で生きてゆく。
消えた世界での補完はそれで終わりだ。それ以外は、元々居なくたって何の支障も無かった世界なのだから。
だから、少し申し訳ないけれど、君には黙って消えてしまおう。
――――そうして何も悟らせないまま、二日の時が経過した。
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