白い死神と300秒の人生

有箱

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epsode3:白い部屋の青年

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 覚悟はしていた。希望を捨てていた訳ではないが、抗えない運命というのは幾らだって転がっているものだ、仕方がない。
 そう自分を慰めようと、認めるのは容易くなかった。

 ベッドの中、呼吸器をしたまま息絶えた僕がいる。そして向かいには、死神を名乗った少女がいた。
 
「……頑張ったのに」
「ご病気ですか、大変でしたね」
「うん。突然の余命宣告されて、こうも早く死ぬとは思わなかったよ……」
 
 病死など、いつだって他人事だった。まさか、それが自らの身に振りかかろうとは、宣告前まで心にすらなかった。
 
「悲しいのですか?」
「悲しいよ。だって、まだ何も出来てないのに」
 
 緩やかな走馬灯を頭に踊らせる。巡る感情を見通したのか、死神は言った。
 
「少しだけ、貴方の話を聞かせてくれませんか?」
 
 それは、今まで待ち望んでいた台詞だった。何度も用意した答えを、するりと取り出す。
 
「誰にも言えなかったけど、結構頑張ってたんだ。両親がいい会社に入りなさいって言うから、色んなこと我慢して勉強に励んでたんだよ。で、良い大学に入って、良い会社に内定して、やっと好きなことが出来るって思ってた。そんな時にこれだ。努力が報われず死ぬなんて思わなかった」
 
 未来が危ぶまれた瞬間から、ずっと吐き出してしまいたかった。
 ずっと頑張ってきた。なのになぜ、と。

 だが、努力を知らない人間に吐いたところで、不幸自慢だと罵られるのがオチだろう。だから、結局こんなところまで持ってきてしまった。

 その後も、つらつらと不幸を語ったが、死神は静かに聞いていた。
 
「死ぬと分かっていたら、違う生き方をしていたということですか?」
「もちろん。こうなるなら、もっと早くから自分の好きなようにしてたさ。家族の目とか全部振り切って、行きたいとこ行ったり、やりたいことやったり。美味しいものだって好き放題食べて。最後の晩餐が点滴なんて悲しすぎる」
「幸福な人生ではなかったようですね」
 
 時間なのか、死神が大鎌を構えた。
 今更思う。もう少し、破目を外しても良かったな。そのことに、あと数年早く気付けていれば良かった――なんて。
 
「では、もし生まれ変わったら、その時はもっと自由に生きて下さい」
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