白い死神と300秒の人生

有箱

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epsode2:選んだ苛められっ子

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 成功のはずだ。私の前には、血塗れの電車と砕けた体があるのだから。ただ、はっきりしている意識が、完全な成功を認めないけど。

 視界の隅、白色が過ぎる。振り向くと、そこには何かがいた。それが人でないと判断するのは容易かった。それが天使か、死神かの判断も。
 
「あんた死神? 魂取りに来たんでしょ」
 
 なぜなら、私は自ら命を絶ったからだ。
 
「その通りです。これから私は、貴方の魂を預かり死後の世界へ導きます。ですが、その前に五分だけ、貴方の話を聞かせてくれませんか?」
 
 求められ、拒否感が全身を纏った。話を促されるのは正直嫌いだ。結局、何の解決にもならないし――って全部終わったんだった。

 拒む理由もないと気付き、"愚痴を吐く程度の気持ちで"と自らに言い聞かせ口火を切ってみる。だが、それでもトラウマは酷く、死してなお背中に悪寒を走らせた。

「私は苛められてた。中学に入って直ぐ。多分、誰でも良かったんじゃない? 段々エスカレートして耐えれなくなったから、遺書に苛めたやつの名前書いて死んでやった。凄いでしょ」
 
 走る口に任せ、吐ききる。心に焼き付いている数多の虐げが、魂の中を暴れた。それを治めるべく、自分が消えた後の世界を想像する。
 きっと、虐めた奴は、責任を問われ重い罰を受けるに違いない。
 
「したいことが出来たのですね。それで、貴方は幸福になりましたか?」
 
 感情の渦に飛び込んだ声は、黒い恍惚を塞き止めた。

 自殺は、悩み抜いてやっと見つけた解決策だ。正直、間違っていると思いたくはない。
 
「そ、そりゃ清々するよ!」
「そうですか。まだ時間がありますね、差し支えなければ、ご家庭の話などもお聞かせ下されば」
 
 死神は否定しなかった。反論を覚悟していた分、拍子抜けだ。
 受け入れられた反動で、言葉が勝手に飛び出していく――表面上の言葉が。
 
「家族は父親と母親がいて、二人ともウザかった。いつも学校は楽しいかとか悩みはないかとか、答えたくないことばっか聞いてきてさ」
 
 私、不幸で可哀想な人間でしょ。どこにも居場所がなくて、死ぬまで追い詰められたんだよ。
 そんな怨念を込め、ぶちまけた。だが。
 
「そうでしたか、では貴方は死ねて嬉しいのですね」
 
 そう問われ、心が硬直した。
 意地が肯定を勧める。だが、どうしてか出来なかった。
 辛い人生が終わったのは嬉しい。しかし、死が嬉しいかと問われれば、答えは決まっている。
 
「そろそろお時間です。貴重なお話をありがとうございました」
 
 気付くと足下が透け始めていた。正真正銘の終わりを前に、新しい感情が暴れだす。
 それは、抵抗も空しく殻を突き破った。
 
「……最後だから言うけど本当は清々してない。親も好き。だから心配かけたくなくて言えなくてさ。死んだのも他に成す術が無かっただけだし。本当は生きて解決したかったよ」
 
 未来を描いた時、実は浮かんでいた。私の為に泣いてくれる人の姿が。
 けれど、今になっては謝罪も、助けを求めることも出来ない。そんな状況を作り出したのは、他でもない自分だ。
 
「では、もし生まれ変わったら、今度は心を殺さずに生きて下さい」
 
 死神が鎌を振りあげる。この光景を見るのは、もう少し後でだって良かったな。何もかも、全て無くした後でだって。

 最後になって気付くなんて、思わなかった。
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