ボクの父さんはダメおやじ

有箱

文字の大きさ
上 下
11 / 15

4-4

しおりを挟む
「その手を離してくれないか」

 馴染みある――けれど聞き慣れない低い声が、背後から僕らを刺す。声とは思えないほどの攻撃力が、手前の男も刺したのは明らかだった。
 するりと手が離れる。振り向くと、真後ろに父さんがいた。自然と僕の横に並び、僕と男の間に腕を入れる。

「彼は僕の息子なんだけど、何をしようとしていたのかな?」

 髪は荒れ地、スーツも荒波。なのに、真っ直ぐな両目は極寒の地のように冷たい。普段姿を見慣れている僕でさえ、一瞬すくみそうになった。

「この子のお父さん……なのですか!?」

 のに、おかしいやろ……!! なんで目ェキラキラになるの!?
 怖じ気づいたと思われた男が、急に瞳を輝かせる。父さんを見つめ、急にテンションアゲアゲで話し出した。

「あのですね! 実はこの鍵を発見しまして、その時にで」
「ああ、それ」

 父さんは怒っているのか、男の発言を容赦なく潰す。表面には笑みがあったが、普段の色とは明らかに違った。

「すみませんね、それは私の持ち物だ。無くしてしまっていて、探していたんです。動物にでも持っていかれたのかもしれません。見つけて下さり助かりました」

 鍵を回収し、もう片方の手で僕の手首をぎゅっと掴む。触れた手のひらは、じっとりと汗を纏っていた。

 もしかして、怖かったのに勇気を出して助けてくれた――?

「あ、ああ、そういうことですか。すみません。私こういうものでして、もし何かあればこちらに連絡を下さい」

 名刺を差し出し、男はそそくさと去っていく。
 完全に姿を消したところで、僕の残っていた力も抜けた。体が地面へ吸われていく。
しおりを挟む

処理中です...