10 / 13
さよなら【3】
しおりを挟む
白うさぎは背中に光を背負い、苦しそうな顔を浮かべていた。私のための悲しみが、心に浸透してくる。
「あのねアリス、僕は日の光を浴びられない病気なんだ。だから日中は影で過ごさなきゃいけない。しかも視力も低いから、雨の日なんかはほとんど見えないしね。だから、月は僕にとっての太陽なんだよ。そして、君も」
今さら、彼がここに来ていた理由を知った。
「僕はこの体が嫌いだった。けど、この体のお陰でアリスに出会えたから、君を見つけられたから。僕は今、良かったと思っているよ」
今さら彼の本音を知った。
「ねぇアリス、苦しいのなら逃げたっていいよ。愛だからって全てを受け入れる必要はない。真剣に向き合って、それでも辛いなら選んだっていいんだ。アリスには逃げられる足があるし、逃げる権利もあるんだから」
逃げる権利――知りもしなかった権限が心を揺らす。
不思議の国のアリスのように、忙しく世界を駆けたいとずっと願っていた。本の中でも夢の中でもなく、現実で。
「ねぇアリス、君さえよければ僕と一緒に……」
「アリス! 何をしてるんだ!」
声に全身が跳ね上がる。かと思えば凍りついた。振り向くことさえできず立ち尽くす。白うさぎも焦りを浮かべ、声を失っていた。
「外に出ては駄目だといっただろう! 病気が悪くなったらどうするんだ!」
近付いてくる。なのに何も言えない。ごめんなさいとの簡単な一言さえ。
視界の横から、握り拳が滑り込んでくる。白うさぎを薙ぎ倒し、地面へ追いやった。赤い血が飛び、光に煌めく。
「アリスは言いつけを守れるいい子だ! 君がそそのかしたんだろう! ここには一生来るな!」
何かあったらどうするつもりだったんだ――叫びながら、お父さまは何度も白うさぎを殴った。何度も、何度も、彼が立ち上がれなくなるまで。白が土色と赤色に染まるまで。
それから、立ち尽くす私の手首を掴む。ブレスレットが食い込み、痛みを走らせた。
「帰ろう、アリス」
私は何も出来なかった。
「あのねアリス、僕は日の光を浴びられない病気なんだ。だから日中は影で過ごさなきゃいけない。しかも視力も低いから、雨の日なんかはほとんど見えないしね。だから、月は僕にとっての太陽なんだよ。そして、君も」
今さら、彼がここに来ていた理由を知った。
「僕はこの体が嫌いだった。けど、この体のお陰でアリスに出会えたから、君を見つけられたから。僕は今、良かったと思っているよ」
今さら彼の本音を知った。
「ねぇアリス、苦しいのなら逃げたっていいよ。愛だからって全てを受け入れる必要はない。真剣に向き合って、それでも辛いなら選んだっていいんだ。アリスには逃げられる足があるし、逃げる権利もあるんだから」
逃げる権利――知りもしなかった権限が心を揺らす。
不思議の国のアリスのように、忙しく世界を駆けたいとずっと願っていた。本の中でも夢の中でもなく、現実で。
「ねぇアリス、君さえよければ僕と一緒に……」
「アリス! 何をしてるんだ!」
声に全身が跳ね上がる。かと思えば凍りついた。振り向くことさえできず立ち尽くす。白うさぎも焦りを浮かべ、声を失っていた。
「外に出ては駄目だといっただろう! 病気が悪くなったらどうするんだ!」
近付いてくる。なのに何も言えない。ごめんなさいとの簡単な一言さえ。
視界の横から、握り拳が滑り込んでくる。白うさぎを薙ぎ倒し、地面へ追いやった。赤い血が飛び、光に煌めく。
「アリスは言いつけを守れるいい子だ! 君がそそのかしたんだろう! ここには一生来るな!」
何かあったらどうするつもりだったんだ――叫びながら、お父さまは何度も白うさぎを殴った。何度も、何度も、彼が立ち上がれなくなるまで。白が土色と赤色に染まるまで。
それから、立ち尽くす私の手首を掴む。ブレスレットが食い込み、痛みを走らせた。
「帰ろう、アリス」
私は何も出来なかった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる