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それゆけ!プロポーズ大作戦!
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あれから、奔走すること約二時間半。玄関の鍵が回る音がした。景が帰宅したのだ。
何も知らない『ただいま』の声に、自然を装い明るく返事した。
食卓には、何とか完成させたご馳走が。そして、私の手にはデコレーションで飾ったケーキがある。
調理の合間を縫い、必死で飾りつけた。
事前に練ったデザインとは、どこからどう見ても違う。しかも初心者丸出しで、お世辞にも綺麗とは言えない。そんなデコレーションではある。
だが、気持ちだけは込めた。これでもか、と言うほど詰め込んでやった。
――だから、きっと大丈夫。景になら伝わる。大丈夫。
今更、緊張してきた。好きの言葉を何度伝えていても、彼の優しさを確信していても、それでも鼓動は高鳴る。
足音が、段々大きくなっていく。そして、ついには扉越しまで来た。ケーキを持ったまま扉の前まで移動し、予定通りサッと跪く。
脳内で最終シュミレーションした直後、控え目に扉が開いた。
「千代、チョコ買って来……えっ?」
両手でケーキを掲げる。目前に立った景は、瞳を丸くして私とケーキを見ていた。驚きが全身から伝わってくる。
さぁ、言え、私。最大の勇気と愛を込めて。今こそ!
「私と結婚してください!」
*
――――数秒の間、カチカチと秒針の音のみが響いた。私にだけ、強まる心音も聞こえていたけれど。
真ん丸だった景の瞳は、徐々に穏やかになっていった。そうして最後には。
「ふふっ」
――なぜか笑い始めた。口元に右手を置き、堪えきれないといった様子だ。
「……えっ? それはどういった……えっ?」
推測していなかった反応に困惑する。微笑ならば想定内だったが、この笑い方は意味さえ悟れない。
イエスかノーかさえ、よく分からなかった。
こんな所で、新たな笑みに遭遇するとは。予想外すぎる。
「……千代」
呼ばれると同時に、差し出されたのはチョコレートだった。ずっと左手にあったのに、気付かなかった。
飾られた小箱から、高級感が溢れ出している。
「えっ、ありがとう…………今!?」
ケーキを一先ず机に置き、受け取った。行動の意味を探し、景を見ると微笑を浮かべていた。どうやら爆笑は済んだらしい。
「うん。それが俺の答えです」
「えっ?」
唖然とした。発言を脳が処理しきれていない。しかし、チョコレートの箱を指差され、するべき事は分かった。
飾られたリボンを解く。箱の蓋を持ち上げると、仄かにチョコレートの香りがした。
意味の分からないまま、保護用の薄い紙を捲る――。
そこには、銀色に輝くリングが置かれていた。チョコレートはどこにもない。
「……これって……」
リングを持ち上げ、掲げてみる。それは、紛れもない本物の指輪だった。
瞬間、直ぐに理解した。先程の発言と指輪が合わされば、その意味は一つしかない。
「はい。千代さん、結婚しましょう」
そう、彼も私と同じ気持ちだったのだ。
何も知らない『ただいま』の声に、自然を装い明るく返事した。
食卓には、何とか完成させたご馳走が。そして、私の手にはデコレーションで飾ったケーキがある。
調理の合間を縫い、必死で飾りつけた。
事前に練ったデザインとは、どこからどう見ても違う。しかも初心者丸出しで、お世辞にも綺麗とは言えない。そんなデコレーションではある。
だが、気持ちだけは込めた。これでもか、と言うほど詰め込んでやった。
――だから、きっと大丈夫。景になら伝わる。大丈夫。
今更、緊張してきた。好きの言葉を何度伝えていても、彼の優しさを確信していても、それでも鼓動は高鳴る。
足音が、段々大きくなっていく。そして、ついには扉越しまで来た。ケーキを持ったまま扉の前まで移動し、予定通りサッと跪く。
脳内で最終シュミレーションした直後、控え目に扉が開いた。
「千代、チョコ買って来……えっ?」
両手でケーキを掲げる。目前に立った景は、瞳を丸くして私とケーキを見ていた。驚きが全身から伝わってくる。
さぁ、言え、私。最大の勇気と愛を込めて。今こそ!
「私と結婚してください!」
*
――――数秒の間、カチカチと秒針の音のみが響いた。私にだけ、強まる心音も聞こえていたけれど。
真ん丸だった景の瞳は、徐々に穏やかになっていった。そうして最後には。
「ふふっ」
――なぜか笑い始めた。口元に右手を置き、堪えきれないといった様子だ。
「……えっ? それはどういった……えっ?」
推測していなかった反応に困惑する。微笑ならば想定内だったが、この笑い方は意味さえ悟れない。
イエスかノーかさえ、よく分からなかった。
こんな所で、新たな笑みに遭遇するとは。予想外すぎる。
「……千代」
呼ばれると同時に、差し出されたのはチョコレートだった。ずっと左手にあったのに、気付かなかった。
飾られた小箱から、高級感が溢れ出している。
「えっ、ありがとう…………今!?」
ケーキを一先ず机に置き、受け取った。行動の意味を探し、景を見ると微笑を浮かべていた。どうやら爆笑は済んだらしい。
「うん。それが俺の答えです」
「えっ?」
唖然とした。発言を脳が処理しきれていない。しかし、チョコレートの箱を指差され、するべき事は分かった。
飾られたリボンを解く。箱の蓋を持ち上げると、仄かにチョコレートの香りがした。
意味の分からないまま、保護用の薄い紙を捲る――。
そこには、銀色に輝くリングが置かれていた。チョコレートはどこにもない。
「……これって……」
リングを持ち上げ、掲げてみる。それは、紛れもない本物の指輪だった。
瞬間、直ぐに理解した。先程の発言と指輪が合わされば、その意味は一つしかない。
「はい。千代さん、結婚しましょう」
そう、彼も私と同じ気持ちだったのだ。
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