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第十五章リース=ロスの幣制改革

第十五章第二十九節(梅津・何應欽協定)

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               二十九

 表舞台で南京政府との関係改善が進んでも、舞台裏では相変わらず“排日”や“抗日”が公然と行われている。とくに軍部を硬化させたのが、ちょうど「大使昇格」で日華親善ムードが盛り上がっていた同年五月、天津の日本租界内で“親日親満洲”路線の華字新聞『晨報しんぽう』社長の白逾桓はくゆかんと『国権報』社長の胡恩傳こおんてんが相次ぎ暗殺されたことだった。
 調査の結果、事件は国民党系の秘密結社「藍衣社」のメンバーによるものと判明。とくに白逾桓は日本軍の使用人であったことから、日清交換公文の権利に違反するものとして問題視した。

 この態度を「せっかくの親善ムードに水を差すもの」と煙たがる論調は当時もあった。
 しかし、昭和十(一九三五)年三月に河北省首席の于學忠うがくちゅうが保安隊の入れ替えに際して搪沽停戦協定を無視した部隊配置を表明。関東軍側からの抗議に慌てて前言を撤回したが、軍は「于學忠の行動に現実的な効果を認められるまでは、厳重監視を加える」と非公式の非難声明を出す事態が発生している。
 また同月から翌四月にかけて、日満軍の討伐によって熱河省を追われた孫永勤そんえいきん率いる東北義勇軍が停戦ラインを越えて河北省遒化縣そんかけんに侵入し、排日策動をしていたという「張匪ちょうひ事件」も起こるなど火種は絶えなかった。

 このため軍部は六月九日、天津軍梅津美治郎うめづよしじろう司令官の名前で北平軍事分会委員長の何應欽かおうきんへ宛て期限付き要求を突きつけ、民国側は全面的にこれを承認することとなった。いわゆる「梅津・何應欽かおうきん協定」がこれである。

 一説によれば「梅津・何應欽協定」は名ばかりで成立していないという。
肝心の何應欽が協定書に署名していないからだ。
 そんな訳でいくら揚子江方面が“親善”ムードに盛り上がっても、華北方面の反日ムードに目立った変化は見られなかった。

 しかもまさに天津軍と北平軍事分会の間で交渉が行われていたさなかの五月三十一日、関東軍特務機関に所属する四人がトラックに荷物を積んで内モンゴルの多倫ドロンノールから張家口ちょうかこうへ向かった。ちょうど前年十月に川口清健かわぐちきよたけ中佐や一行がたどったのと逆の経路を通ったので、彼らも六月五日の午後四時頃張北ちょうほく部落の南門へと至った。
 すると今回も部落の中から宋哲元そうてつげんの第百三十二師衛兵と保安隊が出てきてトラックを停止させた。一行は関東軍職特務機関の身分証明書を提示したが、衛兵らは「そんなものは無効だ」といって四人を連行し、第百三十二師の司令部へ監禁してしまった。
 いわゆる「第二次張北」の発生だ。

 その後、どのような交渉が行われたのか不明だが、翌六日の午前十一時になってようやく解放された。監禁は宋哲元の参謀長の指示だという。しかも監禁中、四人には食事も寝具も与えられずまさに“罪人以下”の扱いだった。これが問題とならない訳がない。
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