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第十五章リース=ロスの幣制改革

第十五章第二十五節(迷惑)

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                二十五

「あれは借款というのではなく、『エクスチェンジ・ファンド・アレンジメント』という方が正しい」--。

 いつもなら打ち解けた雰囲気で田知花と洸三郎を迎えてくれる吉田が、今日はやけに険のある口調でそう言った。
 前述の通り、四月十二日付の『上海毎日新聞』が香港上海銀行と中央銀行の間に二千万ポンドの借款が成立したと書いた。しかも二十一日付の大毎夕刊までが同じ記事を載せたものだから、上海と南京を騒然とさせた。
 結局、行政委員長の汪兆銘おうちょうめいが否定の声明を出したことでようやく事を収めたものの、民国と英国の間に何らかの信用供与を巡る交渉が行われたのは間違いない。それを報道に嗅ぎつけられ騒ぎとなったため、すべてはお流れとなった。
 吉田もこの話に一枚嚙んでいたようで、関係者の一人として多大なる迷惑を被ったという含みを持っていた。

「つまり、民国政府が対外支払いに要する銀を香上銀の上海支店に持ち込むと、ロンドンでその対価をポンド貨で受け取り、これをもって決済するという仕組みです。実質的に銀で払い込むに違いはないが、銀は国内に留まるというところがミソです。当然、信用上のリスクをともなうので、担保の設定が必要になる。そこのところが借款と誤解されたのでしょう」
 吉田は素人に噛んで含めるように金融の仕組みを話して聞かせた。二人がどのような心境で支店長のお小言を聞いたかは定かでないが、報道がもたらしたものは金融の技術的な事柄に関するちょっと“誤解”の域を遥かに越えて、事実上“国際協調”による民国救済が吹っ飛ぶという結果を招いた。

 ことが借款の要請に至るまで、宋子文そうしぶんの側もただ指をくわえてボケッとしていた訳ではない。
 
「彼には何度も言ったのですよ。米国に対し、公式に政策の変更を求めるべきだと。何なら日本が間を取り持つよう外務当局へ働きかけてもいいって」
 やがて吉田はこれまでの経緯をポツリぽつと話し始めた。


 
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