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第十五章リース=ロスの幣制改革

第十五章第九節(シルバーメン2)

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 こうした対外工作には失敗に終わったものの、内政面で躍進した彼らは米政府による銀の買い上げ量をさらに増やす「シャーマン銀買入法」を成立させた。

 皮肉なことに、同法が成立した一八九〇年から九一年にかけて、アメリカの景気は再び悪化した。すると通貨の需要が徐々に減り、海外でも通用する金との兌換を求める声が高まって、銀は政府の手元に残ってしまった。アメリカ以外に然したる銀の需要はなく、国際銀価格は下落の一途を辿った。
 このまま銀の価値が低落すれば、政府は甚大な損失を被るという懸念が生じた。

 一八九六年の大統領選はまさに、民主党が掲げる複本位制をとるか、共和党が主張する金本位制へ移行するかを争点とする選挙となった。
 結果は共和党のマッキンレーが勝利したが、議会におけるシルバーメンの力は依然強く、マッキンレーも彼らを差し置いて“金本位制”を宣言する訳にはいかなかった。そればかりか、金本位制への移行を図る共和党候補の彼ですら、選挙戦の公約には「複本位制を否定はしないが、やるならば他の諸国と足並みを揃えてやるべきだ」と掲げていたほどだった。
 大統領就任後、彼はこの公約を実行に移した。上院議員三名をヨーロッパへ派遣して複本位制復活の遊説をさせたのだ。

 しかしこの度も、シルバーメンの力は海外へは及ばなかった。
 ここに至って一九〇〇年、ようやく金本位法を制定することになる。ただし日本と同様、法的には金本位だが既存の銀券は従来通り通用する、跛行はこう本位制が実勢となった。

 二十世紀に入ると複本位の話は潮が引くように世間から忘れ去られ、世界一般的に金本位制が定着した。
 銀価は徐々に低落したが、第一次世界大戦がはじまると軍需物資を筆頭に世界の生産活動が異常に活発化して、通貨の需要が激増した。それとともに再び銀の需要は高まり、金価と銀価の比率は一九一五年の一対四〇から一九年の一対一五へ急騰した。銀価の高騰は複本位復活の好機となるはずだったが、実際には米政府内の本位銀貨は徐々に海外へ流出し、事実上、銀は貨幣として流通しなくなった。

 第一次大戦が終結すると、案の定、銀価はひたすら落ちていき、三二年末の金対銀比率は一対七〇、八〇となった。この銀安が、世界大恐慌を尻目に中華民国経済が“我が世の春”を謳歌おうかする下支えとなった。

 
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