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第十四章上海事変
第十四章第四十八節(動揺)
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四十八
第十九路軍側の奮闘によって、日本軍は予想外の損害を被った--。
この戦いは欧米の新聞に「“侵略者”に立ち向かう“愛国者たち”」という構図で描かれ、取り分け華人贔屓の米国内に歓迎された。
確かにこの三日間の戦闘で日本軍は苦戦し傷ついた。
だが新聞記者たちは気づかなかったが、第十九路軍側の損害にも相当なものがあった。これ以降、奮闘を重ねる最前線の兵士たちをよそに後方部隊の動揺が目立ち始める。つまり、国民党軍の“お家芸”であり、退却の前兆となる掠奪が発生しはじめたのだ。
この機を逃さず前線の死闘を支えるべく、特務機関による後方支援も動き出す。
当時、上海公使付武官であった田中隆三少佐は第十代粛親王愛新覚羅善耆の十四女で大陸浪人川島浪速の養女である川島芳子を使って、第十九路軍内に「日本軍の増援部隊が到着した」という偽情報を流布させた。
事実、日本政府はさらに二個師団からなる「第三次上海派遣軍」に再編し、元陸軍大臣の白川義則大将を司令官に任命。二十八日には第九師団の補充員五百十八人と混成第二十四旅団の補充四百七人が上海へ到着し、第三次増援隊の先遣隊を担う松山歩兵第二十二聯隊も上陸を果たした。
これらの情報は、敵軍の動揺に追い打ちをかけた。
浮き足立つ第十九路軍へ二の矢、三の矢を放つように、第九師団は二十五日から「第二次総攻撃」を開始した。
不毛に終わった前回三日間の戦闘の反省を踏まえ、今度は鉄条網などの敵陣地前面の障害物を破壊し突破口をつくる戦術に替えて、攻撃目標を敵の火砲へ集中した。
これが功を奏して、さしもの第十九路軍も崩れはじめる。二十六日までの第十九路軍側の死傷者は約五千人、第五軍は約三千人を数えた。
すると港湾鎮西方にあった第六十一師第百二十一旅主力が独断で大場鎮方面へ退却を開始。廟巷鎮の第八十七師主力も掠奪を繰り返しながら大場鎮へと後退した。
戦況は好転したが日本側にはタイムリミットがあった。遠く離れたジュネーブでは三月三日から聯盟総会が開かれることになっている。すでに民国側から「規約第十六条」の提訴がされており、本総会の場で対日経済制裁が可決する公算が高かった。
そうなれば米国も対日制裁に踏み切る。日本は世界を相手に戦をすることになる--。
それまでにできるだけ有利な戦況を作り上げ、停戦に持ち込みたい--。
それが帝国陸海軍と政府中央の希望であった。
第十九路軍側の奮闘によって、日本軍は予想外の損害を被った--。
この戦いは欧米の新聞に「“侵略者”に立ち向かう“愛国者たち”」という構図で描かれ、取り分け華人贔屓の米国内に歓迎された。
確かにこの三日間の戦闘で日本軍は苦戦し傷ついた。
だが新聞記者たちは気づかなかったが、第十九路軍側の損害にも相当なものがあった。これ以降、奮闘を重ねる最前線の兵士たちをよそに後方部隊の動揺が目立ち始める。つまり、国民党軍の“お家芸”であり、退却の前兆となる掠奪が発生しはじめたのだ。
この機を逃さず前線の死闘を支えるべく、特務機関による後方支援も動き出す。
当時、上海公使付武官であった田中隆三少佐は第十代粛親王愛新覚羅善耆の十四女で大陸浪人川島浪速の養女である川島芳子を使って、第十九路軍内に「日本軍の増援部隊が到着した」という偽情報を流布させた。
事実、日本政府はさらに二個師団からなる「第三次上海派遣軍」に再編し、元陸軍大臣の白川義則大将を司令官に任命。二十八日には第九師団の補充員五百十八人と混成第二十四旅団の補充四百七人が上海へ到着し、第三次増援隊の先遣隊を担う松山歩兵第二十二聯隊も上陸を果たした。
これらの情報は、敵軍の動揺に追い打ちをかけた。
浮き足立つ第十九路軍へ二の矢、三の矢を放つように、第九師団は二十五日から「第二次総攻撃」を開始した。
不毛に終わった前回三日間の戦闘の反省を踏まえ、今度は鉄条網などの敵陣地前面の障害物を破壊し突破口をつくる戦術に替えて、攻撃目標を敵の火砲へ集中した。
これが功を奏して、さしもの第十九路軍も崩れはじめる。二十六日までの第十九路軍側の死傷者は約五千人、第五軍は約三千人を数えた。
すると港湾鎮西方にあった第六十一師第百二十一旅主力が独断で大場鎮方面へ退却を開始。廟巷鎮の第八十七師主力も掠奪を繰り返しながら大場鎮へと後退した。
戦況は好転したが日本側にはタイムリミットがあった。遠く離れたジュネーブでは三月三日から聯盟総会が開かれることになっている。すでに民国側から「規約第十六条」の提訴がされており、本総会の場で対日経済制裁が可決する公算が高かった。
そうなれば米国も対日制裁に踏み切る。日本は世界を相手に戦をすることになる--。
それまでにできるだけ有利な戦況を作り上げ、停戦に持ち込みたい--。
それが帝国陸海軍と政府中央の希望であった。
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