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第十四章上海事変
第十四章第四十節(弁明)
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四十
「日本の陸海軍が満洲で取った行動、次いで取り分け上海で行われた諸々の行為は主に誤情報となって世界へ伝えられ、誤解のかたちで認知された」
岡倉天心や新渡戸稲造ほどの著名人ではないものの、この時代には日本の文化や日本が抱える課題を海外へ知らしめようと、地道な演説旅行を繰り返す文化人や政治家が一人や二人はいた。
元民政党議員の鶴見祐輔もそうした一人だった。
彼は主にアメリカの「排日移民法」に反対する立場から、全米各地の大学や諸団体を行脚して日本事情を英語で公演してまわった。
その彼がこの度は、日本の満洲政策を語るべく一月から渡米していた。ひと月余りかけて各地をまわり、ニューヨークへ入った彼は二月十一日、『ニューヨーク・タイムス』の取材に答えた。冒頭の一節はその記事からの引用である。
「確かに我々は、上海における問題の取り扱い方を誤ったのかも知れない……。
だが我々をあくなき『野望に燃える侵略者』と見なす人々は、諸々の事情から我々がかくもドラスチックな行動に出でざるを得ない状況に追い込まれたということを知っておいてもらいたい」--。
一方、ジュネーブの聯盟理事会は「規約十六条」に基づく対日制裁を発動するか否かの協議が佳境を迎えていた。来る三月三日の聯盟総会で決議されれば、日本は世界中から経済制裁を受けることになる。
内容の詳細を確認できなかったが、前年の聯盟理事会で常に対日強硬論を唱えたイギリスのセシル卿が、「日本の行為は大陸の軍事占領を目的としたものだ」という趣旨のレポートを書いたという。これを受けて二月二十六日、石井菊次郎子爵や若槻礼次郎男爵、幣原喜重郎男爵、徳川家達公爵など外交界の重鎮たちは連名で、ロンドン向けに意見書を発した。
翌日付の『ロンドン・タイムス』に掲載された意見書は、「上海における日本の行動はあくまで自衛であり、もしパナマ運河が危機に晒されたなら合衆国政府が執ったであろう政策と同じことをしたまでだ」--と自国の正当性を主張した。
「日本の陸海軍が満洲で取った行動、次いで取り分け上海で行われた諸々の行為は主に誤情報となって世界へ伝えられ、誤解のかたちで認知された」
岡倉天心や新渡戸稲造ほどの著名人ではないものの、この時代には日本の文化や日本が抱える課題を海外へ知らしめようと、地道な演説旅行を繰り返す文化人や政治家が一人や二人はいた。
元民政党議員の鶴見祐輔もそうした一人だった。
彼は主にアメリカの「排日移民法」に反対する立場から、全米各地の大学や諸団体を行脚して日本事情を英語で公演してまわった。
その彼がこの度は、日本の満洲政策を語るべく一月から渡米していた。ひと月余りかけて各地をまわり、ニューヨークへ入った彼は二月十一日、『ニューヨーク・タイムス』の取材に答えた。冒頭の一節はその記事からの引用である。
「確かに我々は、上海における問題の取り扱い方を誤ったのかも知れない……。
だが我々をあくなき『野望に燃える侵略者』と見なす人々は、諸々の事情から我々がかくもドラスチックな行動に出でざるを得ない状況に追い込まれたということを知っておいてもらいたい」--。
一方、ジュネーブの聯盟理事会は「規約十六条」に基づく対日制裁を発動するか否かの協議が佳境を迎えていた。来る三月三日の聯盟総会で決議されれば、日本は世界中から経済制裁を受けることになる。
内容の詳細を確認できなかったが、前年の聯盟理事会で常に対日強硬論を唱えたイギリスのセシル卿が、「日本の行為は大陸の軍事占領を目的としたものだ」という趣旨のレポートを書いたという。これを受けて二月二十六日、石井菊次郎子爵や若槻礼次郎男爵、幣原喜重郎男爵、徳川家達公爵など外交界の重鎮たちは連名で、ロンドン向けに意見書を発した。
翌日付の『ロンドン・タイムス』に掲載された意見書は、「上海における日本の行動はあくまで自衛であり、もしパナマ運河が危機に晒されたなら合衆国政府が執ったであろう政策と同じことをしたまでだ」--と自国の正当性を主張した。
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