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第二部第十三章スチムソンドクトリン

第十三章第四十二節(日米開戦論)

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                四十二

「アメリカの対日感情が今日ほど友好的なことはなかった」--。
 満洲事変の前夜、出渕勝次でぶちかつじ大使とスチムソン長官が交わしたこの言葉には深い意味がある。 
 日露戦争後の日米両国には何ともしっくりいかない、腫れ物のような国民感情が横たわっていた。
 その火種は明治三十八(一九〇六)年に起こった「学童問題」と呼ばれる騒動に始まる、一連の移民問題にあった。

 長くなるから割愛するが、「排日移民法」と呼ばれる種々の法案が持ち上がるたびに、どちらかと言えば日本側の反米感情が高まり、それが対岸へ伝わってアメリカ人の対日感情が悪化するという負の連鎖を繰り返した。
 そしてこの間に、しばしば「日米開戦論」が叫ばれた。

 明治以降の日本は二十一世紀と真逆で人口の“膨張”に悩んだ。おまけに近代化の成果として商工業が発展したから、その製品の販路を求めて「外へ、外へ」と出ていく運命にあった。
 片や合衆国も「西部開拓時代」が終わってさらに「西へ、西へ」と伸びていったから、両者は太平洋のどこかで“必然的”にぶつかる運命にあったと言える。

 実際、大正二(一九一三)年にカリフォルニア州議会が「帰化不能外国人」による土地所有を禁じた「外国人土地法」を成立させると、日本政府はワシントンへ向けて抗議書を提出する。そのあまりに激烈な口調に、閣議では日米戦争の可能性が真剣に取り沙汰されたというのだ。
 その様子はウッドロー・ウィルソン内閣の農務長官を務めたデビッド・F・ヒューストンが綴った日記として出版され、話題になった。

 閣僚たちの意見は「これはあくまで国内の輿論沈静化を目的とした書簡なのだろう」とか、「いや、日本はパナマ運河が開通する前に米国と戦争をする意図がある」など様々で、人によって相当に開きがあった。「米国と戦争をするのに現在の日本の財政状態はあまりにひっ迫している」との議論も出たが、ヒューストン氏は「もし日本に戦う意志さえあれば、貧乏は戦争のさまたげにはならない」とクギを刺した。

 これらはすべて清澤烈氏からの孫引きだが、四月十三日の日記も同様に「戦争の可能性について論議された」と書いている。
 
 「大統領ウィルソン氏は戦争はない。あるように思うのは滑稽である。けれども常に警して注意している必要はあると言った。海軍長官(ジョセファス・)ダニエルズ氏は(中略)『米国は従来(太平洋方面を)防備をしてこなかったから、日本はフィリピン、ハワイおよびアラスカを取ることができる』と言った」
 
 すると大統領は、「取ることは出来るだろうが、しかし結局米国は前進するから、これを永遠に保持することはできないだろう」と返した。ヒューストン氏は米国にとって目の上のたん瘤である日英同盟を念頭に、「彼ら(英国)が日本側につくかどうかによって決まるものである」と語ると、ウィルソン氏は「日米間に戦争はないことを繰り返した」という。
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