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第二部第十三章スチムソンドクトリン

第十三章第三十四節(最後通牒)

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                                               三十四

 交渉の決裂が不可避となった以上、日本側も強面で臨むしかない--と思いきや、この期に及んでなお日本政府は新たな「譲歩案」を提示したのだ。

 つまり、第一号の山東サントン鉄道敷設に関しては、北京側の主張をそのまま受けて「鉄道敷設にかかる借款優先権をドイツが放棄した場合には、これを日本の資本家が商議する」とし、第二号第二条の満蒙における土地に関わる権利も「無条件で更新できるならば『商租』とするのも可」とした。
 また往来の自由に関しては「旅券」の携帯に合意して、警察法令や課税に関してのみ日本国領事の承認した法規へ服従すべしと回答した。民事刑事の訴訟は当面領事裁判権を保持して被告が日華両人となった場合には共同裁判とするが、将来この地の司法制度が改善された段階ですべてを民国側の法廷に委ねることとした。

 またこの領域で最も紛糾した東部内蒙古の件については、南満洲の問題と切り離すのも可とし、これら日本側の譲歩案をすべて呑むことを前提に「膠州湾こうしゅうわん租借地を還付する」とまで譲ったのだった。

 これほどの妥協案を示したにもかかわらず、先方は相変わらず「毫も耳を傾けず、全然和衷わちゅう妥協の誠意を示すことなし」--との態度をとってきた。
 このため膠州湾還付は早々に撤回し、結局「最後通牒」を突き付けるほかないとの結論に達した。

 外交上の最後通牒は「宣戦布告」の一歩手前である。
 日本政府はそう腹を決めて、最悪の事態にいたった場合の居留民保護を英国やロシアに依頼した。そのうえで大陸周辺へ軍艦を派遣する。
 欧州大戦も佳境という局面で、極東に新たな先端が開かれるとの危機感が世界に広まった。するとこの動きを察知した北京政府が少し態度を軟化させて、交渉の仕切り直しを提起してきた。

 散々協議を重ねた上、譲歩に譲歩を継いだ修正案を一切拒絶した挙句、「これが北京側の最終回答であり、これ以上の協議に応じるつもりはない」とイキったのは、陸徴祥りくちょうしょう外交総長の方ではないか!
 それを今さら「元のさやへ……」、などと言われても真に受ける者はいないだろう。

 とは言っても、日本側はあくまで平和裏に交渉を終えたかったから、北京側が強硬に拒絶し、英米が神経を尖らせた第五号の希望事項については、すでに合意に達していた「山東省沿岸部の不割譲」を除いてすべて撤回することにした。
 かくして五月七日の午後三時、日本政府は北京政府へ宛てて「九日午後六時までにすべての修正案に合意せねば、日本が必要と信じる措置を取らざるを得ない」という、最後通牒を手渡すこととなる。

 英国のエドワード・グレー外相はこれを、「譲歩案付き最後通牒」と呼んだ。
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