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第二部第十三章スチムソンドクトリン
第十三章第三十一節(土地商租権)
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三十一
満蒙問題の中核に挙げられるのは、「鉄道に関する権益」とされている。
満洲事変を巡る国際聯盟「十月理事会」が紛糾した際、幣原喜重郎外相が主張した日華両国間に取り極めるべき「五大綱」の中でも最も重要な項目と位置付けられた。
であるから、「二十一箇条」の交渉にいてもさぞやこれを巡る思惑が交差しただろうと思いきや、北京政府との交渉においてこの問題は終始「ハードルの低い問題」と位置付けられた。
ただこの問題は、北京と協議したことを奉天の張作霖・学良とあらためて協議し直すなど、後年の火種として残った。
中央政府と合意した約束ごとを、地方政府が履行しないとか、中央政府を名乗る勢力が複数現れるなど、二十世紀初頭にこの大陸で起こった複雑怪奇な現象は、他の近代諸国になぞらえるべきものではない。
それでも鉄道の問題はまだいい。
すでに満洲へ移り住んで生活の基盤を築こうとする日本人や日本国籍化した朝鮮人たちにとって、切実な課題は「土地」の問題だった。
すでに述べたように「二十一箇条」の交渉における満蒙問題の中心は、日本人の居住権と現地政府側の警察および徴税権にどの程度従うかであったが、極めつけは土地の「商租権」に関する問題だ。
「商租権」とは租借権の個人版と思えばよい。農業のような土地と長期にかかわる事業においては、地主にいつ契約解除を求められるか分からない状態では土地の耕作もままならない。日本側は当初、土地の所有を要求したが、北京政府が外国人による土地の所有を認めなかった。それ故、「租借期限九十九年」に等しい「永租」を求めた。
しかし、陸総長はあくまで「商租」にこだわり、その期限も「日本人に不都合の無い程度の長期間」という、漠とした答えしか与えなかった。
また日本人による農業への従事に対しては、新たに「土地章程※」を定めその制限の範囲内で許可すると主張した。こうしたやり方は総論として「許可」するが、細則のなかで実質的に禁止するという、彼らの常套手段にほかならない。
結局この話は日本側が折れて「商租」を受け入れることとなったが、その商租権ですら度たび侵害される事案が重なり、満洲事変の遠因となった。
※章程=決まりごと。おきて。
満蒙問題の中核に挙げられるのは、「鉄道に関する権益」とされている。
満洲事変を巡る国際聯盟「十月理事会」が紛糾した際、幣原喜重郎外相が主張した日華両国間に取り極めるべき「五大綱」の中でも最も重要な項目と位置付けられた。
であるから、「二十一箇条」の交渉にいてもさぞやこれを巡る思惑が交差しただろうと思いきや、北京政府との交渉においてこの問題は終始「ハードルの低い問題」と位置付けられた。
ただこの問題は、北京と協議したことを奉天の張作霖・学良とあらためて協議し直すなど、後年の火種として残った。
中央政府と合意した約束ごとを、地方政府が履行しないとか、中央政府を名乗る勢力が複数現れるなど、二十世紀初頭にこの大陸で起こった複雑怪奇な現象は、他の近代諸国になぞらえるべきものではない。
それでも鉄道の問題はまだいい。
すでに満洲へ移り住んで生活の基盤を築こうとする日本人や日本国籍化した朝鮮人たちにとって、切実な課題は「土地」の問題だった。
すでに述べたように「二十一箇条」の交渉における満蒙問題の中心は、日本人の居住権と現地政府側の警察および徴税権にどの程度従うかであったが、極めつけは土地の「商租権」に関する問題だ。
「商租権」とは租借権の個人版と思えばよい。農業のような土地と長期にかかわる事業においては、地主にいつ契約解除を求められるか分からない状態では土地の耕作もままならない。日本側は当初、土地の所有を要求したが、北京政府が外国人による土地の所有を認めなかった。それ故、「租借期限九十九年」に等しい「永租」を求めた。
しかし、陸総長はあくまで「商租」にこだわり、その期限も「日本人に不都合の無い程度の長期間」という、漠とした答えしか与えなかった。
また日本人による農業への従事に対しては、新たに「土地章程※」を定めその制限の範囲内で許可すると主張した。こうしたやり方は総論として「許可」するが、細則のなかで実質的に禁止するという、彼らの常套手段にほかならない。
結局この話は日本側が折れて「商租」を受け入れることとなったが、その商租権ですら度たび侵害される事案が重なり、満洲事変の遠因となった。
※章程=決まりごと。おきて。
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