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第二部第十三章スチムソンドクトリン
第十三章第十八節(誤謬)
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十八
外相が先ず指摘した覚書の誤謬は、第一項「顧問採用」の項目に原文にはない「only」の語が挿入されたため、「日本人顧問のみを採用」という意味になった点だ。また「有能な」を意味するcompetentが「influential(影響力のある)」に書き換えられたため、「政府の中枢な地位に日本人のみを置け」という意味に書き換わっていた。
また第三項「警察の合同」に関する条項も、「重要な(important)地域」で実施すべしと誤記されていた。原文では日本人居住者の多い満洲の「必要な地域」としたが、大陸全土におよぶ「主要な都市」との誤認を与える書き口になっていた。さらにその数も「適当な数(adequate number of)」としたはずが、「半数以上(majority number of)」へ捻じ曲げられたため、第三国の反感を誘引するものへと変わっていた。
日本側が警察権の問題を要望したのは、そもそも彼の国では全国統一的な「刑事法」のほかに地方政府または警察署長が任意に警察権を執行することがあったからだ。いったい何の禁止事項に抵触したから逮捕、処罰されるのかがわからず、在留邦人とのトラブルが絶えなかった。
また満洲の一部地域では未だに凌遅刑※が執行され、留置環境も外国人にはとても耐え難い劣悪なものがあった。こうした前近代的な風習を改めるためにも日本人警官を採用し、極力トラブルを回避したいと意図したからだった。
※凌遅刑=生きた罪人の体を切り刻み、長時間にわたって苦痛を味わわせた果てに死亡
させる刑罰。
日本の希望事項で国務省がとくに敏感に反応したのが、第四項の兵器購入に関する条項だ。こちらも原文はあらかじめ「定まった量の兵器(fixed quantity of arms)」としたのを、「最低半数(at least half number of)」と書き換えてあったため、「それでは『機会均等』の原則に反する」ともの言いをつけてきたのだ。
同様に福建省における日本の優先権を求めた条項も微妙な問題だ。日本側にしてみれば、同省が台湾の対岸に当たるため、「ここを第三国の優勢な勢力に支配されれば安全保障上の危惧が増す」というのが真意で、だったが、理屈上「優先権」の付与は「門戸開放」、「機会均等」に反するという訳だ。
加藤外相の説明をひと通り聞いたが、特に米国の利害と衝突するものはないと見える。しかも福建省沿岸の不割譲は、「領土保全」の原則に沿う目的で挿入されたという。
そう聞くとグリーン大使は納得して帰って行った。
外相が先ず指摘した覚書の誤謬は、第一項「顧問採用」の項目に原文にはない「only」の語が挿入されたため、「日本人顧問のみを採用」という意味になった点だ。また「有能な」を意味するcompetentが「influential(影響力のある)」に書き換えられたため、「政府の中枢な地位に日本人のみを置け」という意味に書き換わっていた。
また第三項「警察の合同」に関する条項も、「重要な(important)地域」で実施すべしと誤記されていた。原文では日本人居住者の多い満洲の「必要な地域」としたが、大陸全土におよぶ「主要な都市」との誤認を与える書き口になっていた。さらにその数も「適当な数(adequate number of)」としたはずが、「半数以上(majority number of)」へ捻じ曲げられたため、第三国の反感を誘引するものへと変わっていた。
日本側が警察権の問題を要望したのは、そもそも彼の国では全国統一的な「刑事法」のほかに地方政府または警察署長が任意に警察権を執行することがあったからだ。いったい何の禁止事項に抵触したから逮捕、処罰されるのかがわからず、在留邦人とのトラブルが絶えなかった。
また満洲の一部地域では未だに凌遅刑※が執行され、留置環境も外国人にはとても耐え難い劣悪なものがあった。こうした前近代的な風習を改めるためにも日本人警官を採用し、極力トラブルを回避したいと意図したからだった。
※凌遅刑=生きた罪人の体を切り刻み、長時間にわたって苦痛を味わわせた果てに死亡
させる刑罰。
日本の希望事項で国務省がとくに敏感に反応したのが、第四項の兵器購入に関する条項だ。こちらも原文はあらかじめ「定まった量の兵器(fixed quantity of arms)」としたのを、「最低半数(at least half number of)」と書き換えてあったため、「それでは『機会均等』の原則に反する」ともの言いをつけてきたのだ。
同様に福建省における日本の優先権を求めた条項も微妙な問題だ。日本側にしてみれば、同省が台湾の対岸に当たるため、「ここを第三国の優勢な勢力に支配されれば安全保障上の危惧が増す」というのが真意で、だったが、理屈上「優先権」の付与は「門戸開放」、「機会均等」に反するという訳だ。
加藤外相の説明をひと通り聞いたが、特に米国の利害と衝突するものはないと見える。しかも福建省沿岸の不割譲は、「領土保全」の原則に沿う目的で挿入されたという。
そう聞くとグリーン大使は納得して帰って行った。
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