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第二部第十三章スチムソンドクトリン

第十三章第十一節(四号十一箇条)

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 当たり前のことだが、「二国間交渉」というものは当事国の間でのみで行われるものだ。
 話し合いの結果、自国民にとって不利な条件を飲まされる交渉だってあるし、そうした場合には内容を自国民にすら伏せておく「密約」とする場合だってある--。

 さて件の交渉が始まったのは、年が明けた大正四(一九一五)年一月十八日のこと。
 北京の日置益ひおきえき公使が袁世凱えんせいがい大総統と面会し、直接「要求」と「希望」の両事項を一括で提出したところからはじまった。

 実はこれを遡ること五カ月、日本がドイツへ最後通牒を発した段階で一部新聞には「この機に日華間の国交を円満にする議定書を取り交わすべし」との論評が表れるなど、早くから交渉を巡って各種の憶測が飛び交っていた。
 日本政府はあらかじめ主要新聞の編集主幹を集め、事情を含ました上で報道の自粛を求める協定を結んでいた。ところが交渉が始まるや、すぐさま協定破りの不埒ふらちな新聞が表れ当局者を悩ませた。

 当然、大陸に利害を持つ列強諸国が浮足立った。このため加藤高明外相は少なくとも同盟国イギリスの疑念を晴らしておく必要があるとの判断から、自ら進んで「要求事項」の内容を通知した。

 一月二十二日、東京の英国大使館とロンドンの英外務省へ同時に通告された要求箇条書は、次の「四号十一箇条」からなっていた。

 「第一号、山東半島に関する問題
   第一条、ドイツが山東省に有する権益の処分に関し、今後日独間に取り交わされる協定事項を承諾すること。
   第二条、山東省内もしくはその沿岸一帯と島嶼を何等の名義にかかわらず他国へ割譲もしくは租借せぬこと。
   第三条、膠州湾から済南へ至る鉄道と芝罘または龍口を結ぶ鉄道の敷設権を日本へ付与すること。
   第四条、山東省に商阜地を追加開設のこと。
  第二号、南満洲および東部蒙古に関する問題
   第五条、関東州の租借期限および南満洲鉄道、安奉線に関する経営権の期限を九十九年ずつ延長のこと。
   第六条、(a)日本人への居住権および土地所有権の付与。
       (b)日本への独占的鉱山採掘権の承認。
   第七条、第三国へ新たに鉄道敷設権を与え、外資を導入もしくは租税担保の借款を受ける際には日本の事前合意を得ること。
   第八条、今後政治、金融、軍事にかかわる顧問・教官を要する際には先ず日本へ相談すること。
   第九条、吉長鉄道(吉林=長春間)の運営管理権を九十九年間日本へ委任すること。
  第三号、将来適当な時機に漢冶萍公司かんやひょうこんすを日華合弁会社とする旨の基本合意を結ぶこと。(第十条)
  第四号、領土保全の原則に従い、今後沿岸港湾およびいかなる島嶼も他国へ割譲もしくは租借せざること(第十一条)」

 一月中には同じ文面がフランス、ロシアへ通知され、二月八日にはワシントンにも知らされた。米国だけ二週間も遅れたのは国務長官の都合によるものだが、その間にこの件を巡る新聞の報道合戦は過熱して、種々の憶測が飛び交った。
 それ故、珍田捨巳ちんだすてみ大使が国務省へ公式に通知をした際、ブライアン長官は「新聞報道は随分と事実を誇張している」と胸をなでおろした。ちなみに要求事項への反応も、「関東州租借期限の延長は当初から予期されたものであり、今回の日本の措置は将来起こり得る無用の摩擦を避けんがためのものだ」と好意的だった。
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