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第二部第十三章スチムソンドクトリン
第十三章第一節(詔勅)
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風紋(Wind Ripple)
第二部
第十二章
一
関東軍による錦州占領をもって満洲事変は第一幕を閉じた。
直前の十二月十三日には若槻礼次郎内閣が総辞職して、政府の顔ぶれも一新した。これを境に幣原喜重郎外相は政治の表舞台から姿を消し、関東軍とのぎくしゃくした関係を解消すべく、陸軍中央は金谷範三参謀総長を更迭する。そして後任に閑院宮載仁親王を担ぎ上げ、満蒙問題の解決に本腰で臨む決意を固めた。
これらに加えて年明けの一月八日には、昭和天皇から関東軍将兵へ激励の詔勅が発せられた。
「先に満洲において事変の勃発するや、自衛の必要上、関東軍の将兵は、果断神速、寡克く衆を制し速やかに之を芟討せり。爾来艱苦を凌ぎ礽寒に堪え、各地に蜂起せる匪賊を掃蕩し、克く警備の任を完うし、或は嫩江・斉斉哈爾地方に、或は遼西、錦州地方に氷雪を衝き、勇戦力闘、以て其の禍根を抜きて、皇軍の威武を中外に宣揚せり。朕深く其の忠烈を喜す。汝将兵、益々堅忍自重、以て東洋平和の基礎を確立し、朕が信倚に対えんことを期せよ」
昭和天皇は、「事変が勃発するや圧倒的少数の関東軍が大兵力の敵を前に自衛のため即座にこれを退け、以来、過酷な環境や極寒に耐えつつ各地に出没する匪賊らを掃討して警備の任務をまっとうした」と、彼らの行動を真正面から肯定し高く評価した。そして「(満洲における)長年の禍根を断つべく、嫩江をはじめチチハル、遼西、錦州地方へと氷雪を衝いて東奔西走しつつ勇猛果敢に戦い抜き、皇軍の威武(威光と武力)を内外に示した。その忠勇をここに称えたい。汝ら関東軍将兵は今後もさらに隠忍自重を重ね、東洋平和の基礎を確立して朕(=天皇)の期待に応えよ」--とその労苦をねぎらった。
本庄繁司令官はこの日の日記に、「此日天皇陛下より関東軍に優渥※なる勅語御下賜」と記した。
これまで散々に政府や軍中央部から猜疑の目で見られてきたが、何といっても明治天皇の偉業であり国家の貴重な遺産である満洲の特殊権益を取り戻したのだ。
見る人はちゃんと見ていてくれた--。そんな心情を偲ばせる一文だと言えよう。
※優渥=手厚い。
ここにおいて満洲事変は政界、官界、財界を巻き込んだ、紛う方なき「国策」とのお墨付きを得た。
敗戦後の昭和三十年代に、突如として「満洲事変は関東軍の独走によるものだった」などという暴論が唱えられ、まかり通って今日にいたっている。仮に奉天近郊における鉄道線路爆破が誰の仕業であったにせよ、歴史の事実と正面から向き合うならば、当時の日本が国を挙げて、積年の課題である「満蒙問題の解決」に取り組んだという事実を覆すことはできない。
第二部
第十二章
一
関東軍による錦州占領をもって満洲事変は第一幕を閉じた。
直前の十二月十三日には若槻礼次郎内閣が総辞職して、政府の顔ぶれも一新した。これを境に幣原喜重郎外相は政治の表舞台から姿を消し、関東軍とのぎくしゃくした関係を解消すべく、陸軍中央は金谷範三参謀総長を更迭する。そして後任に閑院宮載仁親王を担ぎ上げ、満蒙問題の解決に本腰で臨む決意を固めた。
これらに加えて年明けの一月八日には、昭和天皇から関東軍将兵へ激励の詔勅が発せられた。
「先に満洲において事変の勃発するや、自衛の必要上、関東軍の将兵は、果断神速、寡克く衆を制し速やかに之を芟討せり。爾来艱苦を凌ぎ礽寒に堪え、各地に蜂起せる匪賊を掃蕩し、克く警備の任を完うし、或は嫩江・斉斉哈爾地方に、或は遼西、錦州地方に氷雪を衝き、勇戦力闘、以て其の禍根を抜きて、皇軍の威武を中外に宣揚せり。朕深く其の忠烈を喜す。汝将兵、益々堅忍自重、以て東洋平和の基礎を確立し、朕が信倚に対えんことを期せよ」
昭和天皇は、「事変が勃発するや圧倒的少数の関東軍が大兵力の敵を前に自衛のため即座にこれを退け、以来、過酷な環境や極寒に耐えつつ各地に出没する匪賊らを掃討して警備の任務をまっとうした」と、彼らの行動を真正面から肯定し高く評価した。そして「(満洲における)長年の禍根を断つべく、嫩江をはじめチチハル、遼西、錦州地方へと氷雪を衝いて東奔西走しつつ勇猛果敢に戦い抜き、皇軍の威武(威光と武力)を内外に示した。その忠勇をここに称えたい。汝ら関東軍将兵は今後もさらに隠忍自重を重ね、東洋平和の基礎を確立して朕(=天皇)の期待に応えよ」--とその労苦をねぎらった。
本庄繁司令官はこの日の日記に、「此日天皇陛下より関東軍に優渥※なる勅語御下賜」と記した。
これまで散々に政府や軍中央部から猜疑の目で見られてきたが、何といっても明治天皇の偉業であり国家の貴重な遺産である満洲の特殊権益を取り戻したのだ。
見る人はちゃんと見ていてくれた--。そんな心情を偲ばせる一文だと言えよう。
※優渥=手厚い。
ここにおいて満洲事変は政界、官界、財界を巻き込んだ、紛う方なき「国策」とのお墨付きを得た。
敗戦後の昭和三十年代に、突如として「満洲事変は関東軍の独走によるものだった」などという暴論が唱えられ、まかり通って今日にいたっている。仮に奉天近郊における鉄道線路爆破が誰の仕業であったにせよ、歴史の事実と正面から向き合うならば、当時の日本が国を挙げて、積年の課題である「満蒙問題の解決」に取り組んだという事実を覆すことはできない。
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