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第十二章錦州

第十二章第二十九節(森師団)

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                二十九

 増派された一個旅団が「混成第八旅団」となる。
 その増派の決定を受けて関東軍は十八日、具体的な作戦立案に着手する。

 錦州攻撃における最大のヤマ場は大遼河だいりょうがの敵陣地をいかに突破するかにある。
 その際、「敵を熱河方面へ敗走させないよう、(進撃は)北方から南へ行う。また第一線の主陣地と第二線への攻撃を同時に行い、一挙にこれを突破する」方針を定めた。

 また新たに派遣される混成第八旅団を独立守備隊司令官森連もりれん中将の隷下に置き、野砲第八聯隊第一大隊も加えて「森師団」を編成。主力の第二師団に後続する部隊と位置付けた。
 
 片や第二師団は依然、部隊内の欠員の補充がままならず不完全な状態だったため、多門二郎たもんじろうは第三旅団を編入して「完全な師団構成」となるよう求めたが、本庄司令官は「現状の戦力で十分戦える」と判断してこれを認めず、第三旅団を司令部直属とした。
 これらを整理すると、大遼河への攻撃は次の態勢で臨むことになる。

 「一、森師団
  二、第二師団
  三、混成第三十九旅団
  四、騎兵隊
  五、砲兵、飛行隊
  六、予備隊」

 総延長四十キロの敵陣地を一挙に叩く作戦は、大まかに言えばこうなる。

 「森師団は攻撃前夜、夜陰に乗じて敵陣地両翼の正面へまわり、攻撃準備を整える。第二師団は敵の中央を突破すべく、払暁とともに前進攻撃を開始。混成第三十九旅団は北寧線およびその南方の警戒にあたる」

 この頃の平津へいしん方面の情勢はというと、天津事件で露呈したように反蒋介石しょうかいせき、反張学良ちょうがくりょう派の動きが活発化。東北軍の中にも学良の命令に服さない者が散見されるなど、蒋張の足元はぐらついた。裏で反蒋張派の糸を引く人物として、取り分け山西サンシ―閻錫山えんしゃくざんは“要注意”と目された。
 しかも広東政府との和平交渉に失敗した蒋介石が十二月十五日、「下野」する意向を漏らしたのを受けて学良の動揺は甚だしく、自分もあるいは下野の已む無きを覚悟した。

 その後、蒋介石は確かに政府主席から退しりぞくが、広東政府の汪兆銘おうちょうめいと連立して軍権の掌握は保持し続けることが明らかになる。すると一時は背中を向けた平津の将領しょうりょうたちも、手のひらを返してふたたび対日抗戦を唱えだした。

 後顧の憂いが去った学良は十二月十六日、錦州にいる参謀長の榮臻えいしんへ錦州防衛の指針を指示する。

 「一、溝帮子こうへいしは左中右の要所であるから、後方陣地に変化のない限り退却を認めず。
  二、打虎山だこさんは溝帮子、錦州の門戸であるから圧迫を受けやすいので、必要に応じて更に増加派遣する。
  三、敵の右翼隊が優勢であれば努めて磐山ばんざんを保持し、機を見て迂回襲撃すべし」 
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