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第十二章錦州

第十二章第十九節(板倉中尉)

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                 十九

 どれほど経ったのだろう?
 気が付くと、大隊本部の車輛の中に寝かせられていた。そう長い時間は経っていないようだった。金子が心配そうにのぞき込んできた。体のどこかが痛むに違いないと思ったが、案外あっさりと上体を起こせた。自分で身体中をまさぐってみたが、どこもやられていなかった。

 板倉中尉がどうなったかを知りたかった。金子の話では、中尉はデッキの下に転げ落ちたまま倒れていたのだそうだ。砲弾に左の脇腹をえぐり取られ、重体だという。
「もう大丈夫だから」
 茅野は金子の肩に捕まり、後方の医務車輛へ行こうとした。
「無理をするな。もう少し休んでいろ」
 金子は気遣ってくれたが、脳裏に焼き付いた徳光とくみつ社会部長の言葉がそれを許さなかった。
「君たちは尋常じんじょうの働きではダメだ……」

 破壊されたデッキを降りて車外へ出ると、遅まきながら列車の後方に積んであった山砲さんぽうを先頭へ移そうとしているところだった。さっきの砲撃で機関士も重傷を負ったらしい。向こうから他社の記者たちが走ってきて、口々にこう言っているのが聞こえた。
「板倉中尉が絶命した--」
 
 列車は新たに敷設ふせつした山砲で応戦したが歯が立たなかったので、百メートルほど後退した。第四大隊長の板津直純いたづなおずみ中佐は全員に下車するよう命じ、残雪がまばらに残る荒野へ散兵線を敷いた。
 正午頃になって、前進をはばまれていた後続の旅団主力がようやく追いついた。鈴木美通すずきよしゆき旅団長を囲んで新たな作戦会議が開かれた。軍議の結果、野砲を繰り出して砲撃戦をやることになった。
 戦況は一転した。敵は八両からなる装甲列車を捨てて敗走した。
 
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