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第十二章錦州
第十二章第一節(満期除隊)
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第十二章
一
三月になると学生たちが卒業シーズンを迎えるのと同様に、軍隊においては十一月二十五日をもって満期除隊の日となる。職業軍人を除いて兵役は二年制だから、内外を問わずにこの頃になると、「モサ」と呼ばれる二年兵たちは娑婆へ戻る日を指折り数えだす。
ところが今は非常時だ。
そこで除隊の迫った兵卒の扱いをどうするかが問題となった。何はともあれ、先ずは事変の初っ端に鴨緑江を渡ってきた朝鮮の混成第三十九旅団を急ぎ原駐地へ戻さねばならない……。
そこで白羽の矢を立てられたのが、折しも満州を視察中だった軍事参議の白川義則大将だった。
第九章「北満経略」のところでも触れたように、白川大将は大正十二年から三年間、関東軍司令官を務めた経歴を持つ。しかもその在任中、満州の二年兵が満期除隊で内地へ帰還した折も折、郭松齢の兵変が起こって対応に難儀した苦い経験もある。
そうした経緯を踏まえ、この問題を相談するにはまさに“うってつけ”だったのだ。
すでに関東軍と“膝詰め”の議論を戦わせ、現地部隊の意向を把握した白川大将は、随伴の今村均作戦課長とともにその内容を「意見書」にまとめ、南次郎陸相と金谷範三参謀総長へ送付した。
片や大将より一足早く帰京した今村課長は十月三十一日、参謀本部内で現地報告会を開いた。その席上、兵力増強問題に関してこう述べている。
「時局が現在以上に発展する場合には大なる兵力を要するものの、現在の情勢であるならば部隊の増加は必ずしも希望しない。むしろ定員の増加もしくは内容の充実を希望する。例えば満期除隊を延期するとか、初年兵の教育を内地で行うなどだ。
新兵器の増加も必要ない。(鹵獲品には我が方よりも極めて優秀な兵器が多数ある)
(中略)
また治安維持に関する新任務の付与は目下のところ必要ないと考えている。すでに帝国政府が縷々発した声明にもある通り、治安維持は事実上、関東軍において実施されている。この際はむしろ、軍の行動にもっと自由な余地を与えてもらいたい」
意見書を読んだ陸軍中央は、「やはり軍事参議から直接話を聞きたい」と視察途上の白川大将を急遽呼び戻し、協議を重ねた。そうして十一月七日の閣議を経て決まったのが、次の諸策である。
「一、朝鮮から派遣した一個旅団を原駐地へ帰還させる。
二、その交代として内地から同数の部隊を派遣する。
三、在満部隊の除隊期日を明年三月まで延期する。
四、本年入営すべき第二師団の新兵は内地で教育し、独立守備隊の初年兵は満州現地で教育する」
すぐさま青森歩兵第五、弘前歩兵第三十一、秋田歩兵第十七、秋田・山形歩兵第三十二の各聯隊から各一個大隊と、騎兵第八聯隊の一個中隊および野砲兵第八聯隊一個大隊を集めた「混成第四旅団」が編成され、十一月十四日の午前、各原駐地を出発。一路満洲へと向かった。
一
三月になると学生たちが卒業シーズンを迎えるのと同様に、軍隊においては十一月二十五日をもって満期除隊の日となる。職業軍人を除いて兵役は二年制だから、内外を問わずにこの頃になると、「モサ」と呼ばれる二年兵たちは娑婆へ戻る日を指折り数えだす。
ところが今は非常時だ。
そこで除隊の迫った兵卒の扱いをどうするかが問題となった。何はともあれ、先ずは事変の初っ端に鴨緑江を渡ってきた朝鮮の混成第三十九旅団を急ぎ原駐地へ戻さねばならない……。
そこで白羽の矢を立てられたのが、折しも満州を視察中だった軍事参議の白川義則大将だった。
第九章「北満経略」のところでも触れたように、白川大将は大正十二年から三年間、関東軍司令官を務めた経歴を持つ。しかもその在任中、満州の二年兵が満期除隊で内地へ帰還した折も折、郭松齢の兵変が起こって対応に難儀した苦い経験もある。
そうした経緯を踏まえ、この問題を相談するにはまさに“うってつけ”だったのだ。
すでに関東軍と“膝詰め”の議論を戦わせ、現地部隊の意向を把握した白川大将は、随伴の今村均作戦課長とともにその内容を「意見書」にまとめ、南次郎陸相と金谷範三参謀総長へ送付した。
片や大将より一足早く帰京した今村課長は十月三十一日、参謀本部内で現地報告会を開いた。その席上、兵力増強問題に関してこう述べている。
「時局が現在以上に発展する場合には大なる兵力を要するものの、現在の情勢であるならば部隊の増加は必ずしも希望しない。むしろ定員の増加もしくは内容の充実を希望する。例えば満期除隊を延期するとか、初年兵の教育を内地で行うなどだ。
新兵器の増加も必要ない。(鹵獲品には我が方よりも極めて優秀な兵器が多数ある)
(中略)
また治安維持に関する新任務の付与は目下のところ必要ないと考えている。すでに帝国政府が縷々発した声明にもある通り、治安維持は事実上、関東軍において実施されている。この際はむしろ、軍の行動にもっと自由な余地を与えてもらいたい」
意見書を読んだ陸軍中央は、「やはり軍事参議から直接話を聞きたい」と視察途上の白川大将を急遽呼び戻し、協議を重ねた。そうして十一月七日の閣議を経て決まったのが、次の諸策である。
「一、朝鮮から派遣した一個旅団を原駐地へ帰還させる。
二、その交代として内地から同数の部隊を派遣する。
三、在満部隊の除隊期日を明年三月まで延期する。
四、本年入営すべき第二師団の新兵は内地で教育し、独立守備隊の初年兵は満州現地で教育する」
すぐさま青森歩兵第五、弘前歩兵第三十一、秋田歩兵第十七、秋田・山形歩兵第三十二の各聯隊から各一個大隊と、騎兵第八聯隊の一個中隊および野砲兵第八聯隊一個大隊を集めた「混成第四旅団」が編成され、十一月十四日の午前、各原駐地を出発。一路満洲へと向かった。
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