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第十一章調査員派遣

第十一章第三十三節(境界線1)

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                三十三

 さて錦州きんしゅう方面に「非武装中立地帯」を設定する上で問題となったのが、その境界線をどこに置くかであった。錦州軍が撤兵する西側の線は満洲のはずれ、山海関さんかいかんで決まった。問題は日本軍が撤兵する東側だ。

 聯盟は錦州から鉄道の駅で東へ二つ行った大遼河だいりょうがの線を念頭に話を進めたかったが、日本側は「こうした問題は両国関係者が現地において実地に協議すべきことだ」と、具体的な回答を渋った。
 ブリアン議長は民国側が錦州軍を関内まで撤退させると表明しているのだから、日本側もバランス上、遼西地方の大部分を含む地域を非武装とするべきだと考えている。

「大体の感触だけでも得られないものか……」
 議長からめ寄られた芳澤が十二月二日、再度東京へ問い合わせた。翌三日にはセシル卿からの要請を受けるかたちで、松平大使からも照会の電報を送った。
 四日には再び芳澤が電報を送り、「ブリアンが『日本側が境界線を決めてくれなければ民国側を説得できない』と困惑こんわくしている」と督促するにいたって、ようやく返答がきた。

 待ちに待った幣原外相からの回答は、聯盟が思い描いた「大遼河」ではなく、錦州市街を流れる「小遼河しょうりょうが」を示してきた。つまり日本側は、軍を退くどころかむしろ錦州まで兵を進めることになる。ブリアンの失望は大きかった。これではせっかく進んだ中立地帯案も、崩壊が目に見えている。「三大使」連名で即座に、「是非とも大遼河の線まで下がって欲しい」と請願せいがんした。
 
 折悪おりわるく、二日付の仏アバス通信<現AFP>が「日本政府は張学良ちょうがくりょう系政府撤退後の中立地帯は、袁金鎧えんきんがいの独立政府の支配下に置かれる必要があると考えている」と報じ、中立地帯の実現に託された希望に水を差した。もしこれが本当だったら、「理事会はただ単に日本の手先となって活動したに過ぎないではないか」との非難を浴び兼ねない。
 ブリアンの腰は急に引けた。
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